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第17話 表と裏の審神者







 ★ ☆ ★









「沙霧。先にお前の対のところへと行ってやれ」

「……いいのですか?」



 砂羽のことは神将たちに任せたけれど。こちらはそうもいかない。異界のこちら側が『平穏の手前』ほどに穢れが落ち着いたのであれば、現世側はそうもいかないことは分かりきっているけれど。


 ここ三年は、向こうと行き来出来なかったのに……大丈夫かなと思ったが。白蛇様が、風呂桶の中にある禍々しい玉砂利を見せてくださったので、納得が出来た。



「これをあちらの『蛇水』に投げ入れてくれ。都波家は自業自得だが、我らには関係がない」

「……承知しました。初代側の人間として、僕自身が投げ入れてきます」

「頼んだ」



 本当は抱えたくないが、けじめとしてその風呂桶を構えてから退室する。廊下には誰もいないが、とっとと捨ててこようと飛翔の術で『蛇水』と呼ばれる川へと急ぐことにした。


 銀の湯が漂って、蛇にも見えるから『蛇水』とも呼ばれたけど。本来は違う名らしい。この玉砂利で戻るかわからないが、桶をひっくり返してじゃらじゃらと水の中に落としていく。



「……おぉお」



 銀の湯がぶくぶく泡立ち、色も湯殿に多い薬湯のそれと同じになった。触れば、いつもは痺れるそれが今日はぬるま湯のに変わったのだ。



「……よし!」



 覚悟を決め、湯桶を放り投げてから蛇水の中へ飛び込む。湯殿に浸かってのんびりしたいくらいの温かさで、頭が溶けそうになるのを堪えた。潜水するように、下へ下へと向かえば。色の境がある銀の湯が見えてきた。


 そして、その向こうから赤い影が見えてくるのも!!



「沙霧殿!」

朱音(あかね)! 大丈夫!?」



 赤と黒の狩衣。懐かしい顔に会えて、嬉しくないわけがない。


 僕の、僕だけの……対であり、最愛。


 二つの神がお与えくださった、本当の僕の。


 これまでの贄姫たちには悪いけど、朱音は僕だけの嫁御なんだ。互いに仕える主神たちの審神者という道具ではあれ。


 寄り添うが、必要以上は先に進まないお互いの男神と女神。その側仕えだと知ったら、砂羽はどう思うだろう?



「何が!? 何があったんだ!? 向こうは久方ぶりに吹雪いて、こちらが通り易いのだが!!」

「……酷い?」

「……屋敷全体が凍りつくほどに」

「…………事情説明するから、向こうに行こう。白蛇様の現状も伝えるから」

「相わかった」



 潜水の能力は彼女の方が上なので、矢羽のように飛び出していくのに……僕も、出来るだけ付いて行くけど全力ですら追いつかない。岸に飛び出した時には、顔を出したところから凍りつきそうだったので、湯の川から出にくかった。



「ははは。お前でも寒いか、沙霧」



 雄々しい体格。右に隻眼。


 腹の底から喜んでいる声を聞くのはいつ振りだろうか。


 久しく、『鵺の道』を使わずに異界から飛び出したが。砂羽をあの井戸に投げ込んでくれた、僕の子孫らの方が大変だろうに。狭間に隠してあるが、ここからそこは意外と近いんだ。




「狼王様……白蛇様とお会い出来ますよ? 行かれますか?」

「……魅力的な誘いだが、やめておこう。こちらに連れて来ては……凍えるで済まない」

「了解致しました。実はまた贄姫がこちらに投げ込まれたことで、ここの呪詛が落ち着いたのです」

「……ほぉ?」



 砂羽の事を少し伝えて、氷の眼をするんだから……多分だけど、いい加減腹立ってたこの方の怒りで、都波の家は断絶だね。あと、朱音と僕らを引き離した方の家も。


 狼王様は隻眼の反対にある布を剥がし、朱色の瞳を露わにすればそこから、幾つもの火花が瞬きと同時に起こり……空へ昇っていくと、駆ける狼の群れと変わっていった。

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