第14話 世間以上に自分も知らない
私は、本当に『世間知らず』とやらで育ち過ぎたようです。私自身は『癒しの霊力』があったことで、巫女姫とやらの生活をさせられていましたが。
それは、結果的に沙霧様を復活させないための『生け贄』だったそう。
騰蛇様から『おまんじゅう』というのをいただきつつも、沙霧様以外の事をお教えいただきました。ふかふかなのに、優しい甘さでおまんじゅうは美味しかったです。
「では、癒しの力は……無くなっていないのですか?」
「沙霧の推察だとな。けど……あの家に戻りたくないだろ?」
「……はい。もう、二度と」
こちらでの『温かさ』を知ってしまったからには、道具扱いでしかない生活には戻れません。戻りたくもない……あの親はただただ私を『仕事道具』にしか扱わないのは、身をもってよく理解しました。
「……そうか。けど、住む場所はやはりこの屋敷がいいだろう。女は白蛇様がいるから安心しろ」
「……あ、はい」
天一様は正確には女性ではないそうですけれど。こちらに滞在していれば皆様ともご一緒と同じ。流石に、それ以上を癇癪を起こして泣き虫になってはいけませんもの。
「……騰蛇。砂羽は起きたか?」
「ああ」
あの凛々しいお声の女性が入られましたが、やはり何度拝見しても見目は殿方に見えてしまいます。しかしながら、このように美しい女性もいらっしゃるとは思えませんでした。世とやらは不思議でなりません。
「寝所、お借り……しました」
「良い。私の屋敷だから、気にしなくていいが。しかし……贄姫の風習はとんと酷いな? ここまで痩せさせるとは」
「食材、借り受ける。やはり、菓子程度では満たされぬようだ」
「ん。頼んだ」
騰蛇様が出て行かれましたが、白蛇様がいらっしゃるのでひとりではありませんのに……少し、寂しいと思ってしまうのは何故でしょう? 何を、淋しく思う必要があるのでしょうか?
「……あの。私、こちらでお仕事をさせていただいて」
「待て。まずは体を作ることから大事だ。湯にもまともに浸かっていないようだからな? 今から湯殿へ行こう」
おいでと手を引かれてましたが、久しくまともに歩いていなかったので、もつれて倒れる始末。起き上がろうとしたら、今度は白蛇様に抱えられました!?
「あ、あの!?」
「私くらいでも……か。とりあえず我慢はしてくれ」
降りる間もなく、とっと、と運ばれた場所は温かなお湯の香りがする場所でした。いつも、身体を清めるのは氷のように冷たい水だったので、かなり久しい香り。
湯船、の手前にて装束全てをひょいひょい白蛇様に外していただき……互いに単衣のみとなってから湯殿に運ばれました。そして少し待つと、あったかいお湯が髪からゆっくりと掛けられてびっくりしましたが。
「……冷たくない」
「どんな生活をさせていたんだか。贄姫への作法でもないな……汚れもひどいから、いっそ湯の中で洗うか」
今度は湯桶どころか、お船の中でばたつくことの出来る湯の中。温かくて気持ちが良くて寝そうになりましたが、髪を自分で洗うことで意識を保ちます。
汚してもいいと言われましたが、湯に触れるたびに色が黒く染まっていきます!? それと、溜まった汚れ自体が塊となり……ウヨウヨと湯の中を泳ぎ回ったのです!?
「は、白蛇様!? これでは!?」
「暫し待て……ん?」
術で何か唱えられかけましたが。私の周りから、ただの土汚れに変わっていくそれは……最後には黒い玉砂利になりました。数個程度だったので、白蛇様はひょいひょいと持ちます。桶にじゃらりと入れれば、お湯はまたきれいになったので……白蛇様も単衣のまま、湯の中へ。
張り付くそれに、体はやはり女性だとわかりましたが。
「……あれは置いていても、大丈夫でしょうか?」
「私が必要以上に触れても戻らんかったから、大丈夫だ。さて、月の湯で穢れを抜いたら……可愛らしいじゃないか?」
隻眼にてゆるりと微笑まれ、お美しいそれにぽうっとなりそうでしたが。せっかくの温かい湯を堪能しようと、ゆっくり浸ってみました。




