第13話 荒神など偽りでしかない
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かなり久しぶりに身体が動いたかと思えば。
どうしてか、やはりあの愚かな家々の『繁栄』とやらに家の子どもを贄に差し出す愚かな風習のせいとは。でも、久しぶり受けた『血毒』のおかげで僕と白蛇様が動けたのは誤算だったはずだ。
その偽りを塗り替えるいい機会として、わざわざ白蛇様が動くくらいだもの。
目的の場所に飛翔で到着すれば、異界と現界を『楔』にしておいた水晶の原石が薄っすらと青く染まっているのが見えた。
白蛇様は僕よりも先に石に触れる。すると青い部分が白蛇様の周りに墨で出来たシミのように、ゆらゆらと集まり出した。
「……なるほど。あの子どもは癒しに特化していたのか。おかげで今触れても随分と楽だ」
「僕もです。わざわざ『蜜』にする必要がないくらい、この中を綺麗にしてくれたようですよ」
「都波の子孫。だが、魂の近さだとお前には妹がいい。それはその通りだ。今度は霊力が混ざり過ぎて、『毒の贄』が出来てしまうからな」
「あと、すでに縁は僕以外に出来ています」
「……ほう?」
白蛇様も意味深な笑顔だから、その縁の相手が誰だかもご存知かもしれない。しかして、これをこのまま維持するのは現界側をどうにかしなくてはいけない。
壊すか。
滅びを待つか。
どちらにしても、砂羽を悲しませることに変わりないが。彼女を道具にしか見ていない人間の根底は、このままであれば腐っていくだけ。
帝の側を離れ、自分らの繁栄しか顧みないのは数百年立っても同じなのだ。こちら側が終焉を促すしかない。
「まだ狼王様には、現界側でも繋がらないでしょうね……」
「気づいているだろうが。彼奴の住んでいるところは……今ごろこちらどころではないはずだ」
「鬼門の神、として居てくださっていますからね。あの方への供物が僕ら都波の人間だなんて、とんでもない」
「だからこそ、終わらせよう。白の荒神扱いなど、私もごめんだ」
白蛇様が手を離せば、青は頂点を突き抜けていくかと思っていると……ゆっくりと蜘蛛の糸のように細く伸びて上へと昇っていく。まるで、羅生門を通じた古い噂話のように。
「態とですか?」
「せめてもの、意趣返しだ。私らを毒塗れにした自分らの『恥』となるように」
「言いつけは、狼王様に?」
「もう気づいているだろう」
水晶の中の色が消えるまで僕らはそこに滞在し、完全に抜け切ってから社へ飛翔していく。地上の声がかすかに聞こえたけど、神将以外の下位くらいの神々も泣きながら喜んでいたものだった。
「皆の者、聞け!! 我らを荒神と称していた者らへの報復は終わった!!」
白蛇様が叫べば、下から白金の塊が飛んできたが……僕が受け止めれば形は小さな女の子になっていた。ぐじゅぐじゅに泣いてた、神将の天一だったよ。
「うぇ……うぇえ! あるじぃ、主!! 動けてよかったぁ!!」
「ふふ。長い間、お待たせ」
安倍の師匠から借り受けてた十二神将。
この異界側で守護に就かせていたけど、こうしてまたしゃべれる日が来るとは思わなかった。天一の馬鹿力はすごいけど、今は我慢したよ。
呪いを受け続けてて、最初の『贄の審神者』にされてた僕の役目も……砂羽のおかげで終わったからね?




