現世の蛹編 第七話
著者:根本鈴子 様@coconala
企画:mirai(mirama)
蘭は木刀を右手で持って、少女の首を狙って突いた!
しかし少女はふわりと浮き上がって、その背に朱世蝶の大きな羽を羽ばたかせている。
そして微笑みながら街全体に朱世蝶をひらひらと舞わせていき、まるで街を火事にするかのように、その大群の朱世蝶で街をいっぱいにする。
「このぉっ!」
「ふふっ、木刀なんて、今時流行らないわよ」
そうしてビルを背に片手を蘭に翳しているその少女は、手から妖しい赤い光を放ち、朱世蝶を召喚する……!
蘭は朱世蝶を木刀で叩いて、自身に触れないようにしていた。
しかしなかなかその終わりがやって来ない。
蘭もさすがに体力に限界が見えてきた、その時だった。
「にゃあぁーん!」
真白が、隣のビルから真白の白い毛のように白い蝶の嵐と共に、少女へとぶつかっていったのだった!
「な、何!? 白い朱世蝶!? こ、こんなの知らないわっ。何よ、これ! 私は、私はただ街を綺麗に、綺麗にしたくて……! いいえ、まだいける。こっちには、この子がいるんだもの!」
そして少女は蘭の首を掴んで、真白の前に持って行く。
「この子も、壊れちゃうけどいいのかしら? うふふっ」
「にゃーん!」
真白はそんなことはないと言いたそうに、強気で少女に向かって行く。
蘭を飛び越え、朱世蝶をその小さな爪で引き裂き、少女の片目を傷つけた!
「いやあー! な、なんてことをするのよ! でも、こんなのすぐ治して……!? な、治らない!?」
片目には白い朱世蝶がひらひらと舞って、透けながらその傷口に入り込んでいく。
「にゃあ! にゃあああああ!」
「え? 蘭を戻したら、元に、戻してくれるって……? わ、わかったわ。すぐに戻す。だから、お願いだから中に入った白い朱世蝶を取り除いて頂戴!」
少女は蘭をビルの屋上に寝かせると、両手を翳して、落ちた左手や傷などがどんどん治っていく……。
『朱世蝶の力』で……。
「こ、これでいいでしょう? もう、この街にも来ないから……。さようなら」
「にゃあ!」
真白は当たり前だと言いたそうにして、すぐに蘭の側に行った。
「はは……。真白、私、朱世蝶で治っちゃった。びっくり」
蘭は、少しだけ、泣いていた。
一方で、逃げていった少女は非常に残念に思っていた。
「あの子となら、おともだちになれると、本当に思ったのにな……」
そう言いながら、大群の朱世蝶を引き連れて、街から街へと移動していったのだった。
蘭は、ふと脳裏に様々な記憶が浮かんでは消えていくことを繰り返していた。
そして自分の正体について、思い出す。
「なんだ。私達、朱世蝶だったんじゃない……っ!」
雨が、降り始めた。