現世の蛹編 第五話
著者:根本鈴子 様@coconala
企画:mirai(mirama)
「今日は暇だね。真白」
「にゃぁん」
一人と一匹はのどかに公園のベンチに座っていた。
今日は朱世蝶も出て来ず、困った人も見かけない。滅多にない暇な日だった。
蘭は一人でブランコを漕いでいた。
足で地面を蹴って後ろへと跳ねて、前へと勢いよく足を伸ばす。
それを繰り返してブランコの揺れを大きくしていた。
その公園には蘭と真白以外誰も居ない。
だからこそ子供のようにはしゃげると言えばはしゃげるのだった。
「わーい! こんなに高くまで漕いじゃった!」
そう言いながら蘭は遠くに靴を飛ばした。
「よし! 遠くまで飛んだぞー!」
ズザーと音をさせてブランコは止まった。
そして蘭はブランコから降りると、片足でケンケンしながら飛ばした靴のところまで行き、靴を履く。
「こんなに幼少の頃を思い出しそうなことってないわね! ……幼少の頃が、私にはよくわからないけれど。そういえばお父さんとお母さんもいないし、私って何なんだろうなぁ……」
蘭は自分が朱世蝶であることに気づいていない。
記憶が抜け落ちていることも、そのせいか、それとも気にしない性格なのか、あるいはそれさえも作り込まれたものなのかはわからないが、蘭はそれで良しとしていた。
普通ならば有り得ないことなのに、欄にはその普通がわからない。
きっと今は海外赴任しているんだろう、ひょっとしたらどこかで暮らしているのかもしれない。そんな風に考えていた。
でも、蘭は気づいていない。夜の間、蘭が寝る間もなく動いていても自分自身に疲労が溜まらないこと。それがいかにおかしなことなのかを。
蘭はそんなおかしな状態であるということに気づかず、常に朱世蝶を追って生きている。
自身が生きていない朱世蝶だとしても。
「真白―、真白もパパとママいないよね。どこ行っちゃったんだろうね。私達の両親」
「にゃぁん」
真白も知らないと言った様子だった。
「ま、父さんも母さんも居ても居なくても一緒か。私には真白がいるもんね。真白には私がいるし、問題ない!」
「にゃあん」
真白はそうだとでも言いたそうに返事をした。
「さて、そろそろまた怪異を探しに行こうか。真白、行くよ」
そうてして蘭達は歩き出す。街の中へと、その足を進めた。
そうしている内に、朱世蝶の大群が空を飛んでいるのを見つけた。
蘭と真白はただ事ではないと感じ、その朱世蝶を追いかけることにしたのだった。
「真白、怖い?」
「にゃー?」
「怖くないか。そうだよね。いつも私達、一緒に頑張って来たもんね!」
そうして、蘭と真白はその大群の朱世蝶の後を追った。