現世の蛹編 第四話
著者:根本鈴子 様@coconala
企画:mirai(mirama)
朱世蝶はある女の子をじっと見ていた。
その子は自分に自信がなく、辛い青春時代を送っていた。
そんな中、そんな彼女を好きだと言ってくれる人がいた。
高校生で、初めて異性と家に帰った。
隣に置いていてくれる。それだけで女の子は十分幸せだった。
もっと彼のために可愛くなろう。
もっと彼の好みになろう。
そう思って女の子はおしゃれに手を出した。
でもいくらやっても彼氏から褒められることはなかった。
そして思わぬところで知ってしまう。
彼の本性を……。
女の子は彼が電話をしているところ、背後で驚かせてやろうと待ち構えていた。
でも、どうやらその電話は自分のことについてらしいと知る。
「いやさ、まじ最近努力してるみたいなんだよね。でも全然可愛くねえの。馬鹿みてえに高い化粧品使ってるかもしれないけどさ、元があれだからなぁ」
笑いながら言っていた。
だったら、だったらもう彼なんて要らないと、その女の子は思ってその場を去った。
女の子の夢、素敵な彼女になること。
それだけが朱世蝶となって、空を飛ぶ。
そうして同じように恋をしたと思っていた彼に騙された女の子達の間を、朱世蝶は飛んで回った。そして出来上がったのが、理想の女の子。
世の中の女の子が目指す理想になるために、理想的な女の子から記憶を、姿を貰いながらひっそりと街中に立っていたのだ。
蘭と真白はそれを知って、この朱世蝶も、ある意味では犠牲者のなれの果てかと思った。
こうまでして、自信を失って、自身も見失った女子達の、「綺麗でありたい」「彼のために可愛くありたい」「でも、騙された」という必死な声が形を成さなければならないほどのものだったのだ。
「悲しかったね。辛かったね……。今、楽にしてあげるね」
蘭は大きな朱世蝶を消し飛ばした。
女の子の笑い声や悲鳴が、蘭や真白にはたくさん聞こえた。
それが女の子の夢を追う朱世蝶だったものの見てきたものの声。
いくつもの女の子の騙された声、それらが、広がっていた……。
「真白、寂しいね。人間ってどうしてこうも欲深いんだろうね。どうして騙そうってするんだろうね。女の子の気持ちを弄ぶ男なんて、男じゃないよね……」
「にゃあ……」
蘭と真白は朱世蝶がその空気に溶けていくのをしっかりと見ていた。
「行こうか。真白」
「にゃあ」
「女の子達、少しでも元気になるといいね」
「にゃあ?」
「私? 私は大丈夫だよ。だって彼氏作らないもん」
「にゃにゃっ」
蘭と真白はその場から立ち去る。
もう、こういう悲しいものには出会いたくないと思いながら。