現世の蛹編 第一話
著者:根本鈴子 様@coconala
企画:mirai(mirama)
蛹はいつか、蝶になる。
そんな話をどこかで聞いた気がする。
その怪異は、まさに蛹と言ってもいいだろう。
蛹は自身が蝶であることを知らず、ずっと蛹のままでいるかとも思われた。
しかし、少しずつ、歯車は回っていく。
蝶へと変わる、その日まで。
「出てこい出てこい怪奇やらー」
そんな風にふざけながら歩いているのは蘭という少女だった。
まだ十七歳で、いつも猫の真白と一緒に居る。
「真白、怪異はあった?」
「にゃーん」
「ないかー。そっかー」
この世には朱世蝶という怪異が存在している。
朱世蝶というのは名前の通り赤い蝶で、あの世から飛んできているなどと言われている。
そんな朱世蝶には近づかないのが普通の人間というものだった。
何故なら、朱世蝶があるところにはトラブルがあるから、とされていた。
そして、ひらひらと朱世蝶が数匹飛んでいるのを蘭と真白は見た。
「あ、怪異かも! 行くよ! 真白!」
「にゃーん」
一人と一匹が行くと、そこには異形と化したセーラー服を着た十五歳くらいの少女が長い長い髪の毛で、一人の男子を髪の毛で巻き取り、宙に浮かせていた。
その男子も十五歳くらいで、恐らくその怪異に憑りつかれた少女と何らかの関係があるのだとわかる。
「どうしたの。どうしてそんなにその人を縛り上げているの」
蘭がそう言うと、その少女は小さく言葉を漏らす。
「さみしいの……。人の中は寒くて、寒くて……。孤独は嫌で……」
「そうなんだ。でも、人を殺めたりしたらいけないのよ? 自由を奪ってはいけない。そんな権利、誰にもないの。朱世蝶に惑わされちゃダメ」
「朱世蝶? ううん。これは、私の意思。この人が、私を好きになってくれないんだったら、いっそ……」
「真白、行って!」
「にゃー!」
真白は少女に向かっていた。そしてその少女の手を引っ掻く。
その衝撃で、髪の毛は緩み、男子は地面に落ちた。意識はないものの、生きてはいる。
「何するの……。あなた達も、私を邪魔者扱いするの? 弱虫って、ひとりだからって、私を邪魔者扱いするの?」
「そんなことしない! ねえ、私達友達になろうよ! きっとあなたは根はとっても素直なんだと思う! だから、朱世蝶に惑わされちゃったんだよ」
「友達……? ともだ、ち……」
少女はそう言うと、身体が倒れた。そして朱世蝶と怪異の黒い靄がその身体から出て来る。
そしてそれを真白が「にゃーん」と鳴いて、飲み込んでいった。
「よし、真白頑張ったね。ねえねえ、女の子、女の子」
「……私……、何を……?」
「私は蘭。あなたの友達だよ。連絡先交換しよう!」
「え? でも……私達何も知らないし」
「これから知っていけばいいじゃない! それじゃあ、はい、交換。それとね」
「……はい」
「恋愛は、人任せっていうのはよくないよ? 自分でなんとかしなきゃ、また怪異になっちゃうんだからね」
少女は顔を真っ赤にさせて何度か頷いた。
そして蘭と真白は街中の人混みに紛れた。
「今日の怪異は割と普通だったね。真白」
「にゃーん」
そう言う彼女達の周りにも、朱世蝶が二匹ほど、飛んでいた……。