現世の蛹編 序章
著者:根本鈴子 様@coconala
企画:mirai(mirama)
朱世より飛んでくる赤い蝶、朱世蝶。
街には何故だかそんな噂がどこにでもあって、子供だって知っている。
でもそれが普通だと信じるのが現代人で、信じないのは昔の人なんていうのは不思議な話だ。
何と言ったって、この世に怪異というものが現実にあるとされたのがここ最近の話なのだから――。
「うーん、今日はいい天気だね! 真白」
「にゃお」
真白と呼ばれるのは白猫だ。
そしてその飼い主は蘭と言う。
この辺りで怪異を調べては解決していったり、観察をしているのだった。
「にゃーお」
「お、真白、朱世蝶見つけた? あ、いるねぇ。ってことは、この辺りで何か怪異の力を借りて起こった事件があるということだね! 真白!」
蘭は真白の行く先を見に行った。
そこには怪異が存在した。
形にして形にならず、人を飲み込む怪異の姿。
何とも言い難い、その怪異に蘭は「不味いな」と思った。
この怪異は人を飲み込むと。
その証拠に朱世蝶がたくさん辺りを舞っている。
「真白、あの怪異食べられる?」
「にゃー」
任せろとでも言いたそうに真白は怪異に向かっていった。
怪異の多くは人間の負の感情、絶望から生まれるものだ。
そしてそれを蘭と真白は消すことを目的とし、日々を生きている。
「真白、さあ、食べてごらん」
真白は怪異を食べた。怪異はしゅるりと靄に姿を変えて、逃げようとするが、真白が口をわずかに開けているとそこに怪異は吸い込まれていく。
そして残った朱世蝶を蘭が両手で捕まえ、ぱくりと口に入れた。
「これにて任務完了……っと! 任務って言ってるけど、誰に命令されたわけでもないけどねー。って、誰もいないか。あはは」
蘭はそう笑っていたが、その背中に、朱世蝶の羽が付いていることを、まだ蘭は知らない。
真白は気づいている。蘭が人間ではないことに。
蘭は朱世蝶の形を変えたものであるということを。
そしてそれを本人は自身が怪異などとは知りもせずに、人間に紛れて生きている。
自身が怪異だとされていることも知らずに。
蘭は救いの朱世蝶という怪異として噂されている。
だが、その怪異はまだまだ成長途中だ。
まるで、蝶の蛹のように。
「真白、次はどこに行こうか? どこに怪異あるかなぁ? 人間に危害を加えるやつは私達でぜーんぶ、退治しちゃおうね!」
――でも、全部退治したら、今度は私がなろうかな。
瞳に怪しい光が輝いた。
その瞬間、朱世蝶がどこからともなく集まって来て、真白と蘭を囲んだ。
「ありゃりゃ、綺麗だねぇ。でも、人間に危害を加えたらただじゃおかないよ!」
そう言いながら、にっと微笑む。
真白は思った。この怪異は退屈しないと。
この怪異とならば付き合ってやってもいい。
たとえ、朱世蝶の蛹だったとしても。