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幻夜の影―シリンディンの白鷲・3―  作者: 一枝 唯
第1話 灰色の影 第3章

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05 あと半月もすれば

 「迎えの者」には、思惑があるのかもしれない。

 ハルディールが考えたのは、貴族たちの勢力争いのようなものがオーディス家の周囲にもあるのではないかということだった。シリンドルでは、あまり見られないもの。

 確かに、思惑は存在した。

 しかしそれは、シリンドル王が考えるようなこととは違った。

「巫女姫に、神官」

 フェルナーは唇を歪めて呟いた。

「冗談じゃない。どちらにどれだけ力のあるものかは知らないが、もしも何かを見られて」

 彼は大げさに手を振った。

幽霊(・・)だなんて的外れなことを言われたらと思うと、ぞっとする」

「……フィレリアに聞かれるぞ」

 静かに、ルー=フィンは言った。フェルナーは鼻を鳴らした。

「聞かれたって、どうってことない。あいつは言いなりの、自動人形みたいなもんだ」

「だが、お前の身体の……ヨアティアのことは知らないと」

「知らないとも。知る必要もない」

「確かに、必要はないな」

 ルー=フィンはうなずいた。

「僕自身は、王と話をしてもかまわないが、エククシアからは気をつけろと言われている。それに加えて、神の使徒どもときた。断って当然」

「しかし、礼儀にはもとる」

 少ししかめ面をして、騎士は言った。

「陛下のご招待を何だと思っているのか」

「所詮、小国じゃないか。おっと、怒るなよ」

 フェルナーはおどけるように両手を上げた。

「事実だろう?」

「――国土の広さや国力の強さだけが、国の価値を決めるのではない」

 騎士は静かに答えた。

「では、何が決める? 神の加護の大きさか? お前はそうやって、二言目には〈峠〉の神、〈峠〉の神だが、その素晴らしい神様はお前に何をしてくれたんだ?」

 唇を歪めて、フェルナーは尋ねた。

「両親を失わせ、恩人を失わせ、恋人も」

「黙れ」

 ルー=フィンは低く、鋭く、声を発した。

「――黙れ」

「は」

 フェルナーは嘲笑した。

「痛いところという訳か、ルー=フィン? 僕にはお前の信仰が全く理解できないよ」

「理解されずともけっこうだ」

「本当に、理解できない」

 ルー=フィンの反駁を無視するかのように、フェルナーは繰り返した。

神は(・・)ちっとも(・・・・)お前を守(・・・・)ってなんか(・・・・・)いないのに(・・・・・)

 くすり、と彼は笑った。銀髪の騎士はそれをじろりと睨んだが、もうそのことについては何も言わなかった。

「『迎え』はいつ、くるんだ」

 代わりに、彼は問うた。

「さあね。でもきっと、そろそろじゃないか」

 フェルナーはいい加減なことを言った。

「迎えがきて帰るのであれば、何のためにここへきた」

これ(・・)による」

 フェルナーは自身の胸辺りを指でとんとんと叩いた。

「これの父親の墓参り、なんて辺りじゃ気に召さないのか?」

「それならお前だけでいいはずだ」

「フィレリアか。彼女は目眩ましだと言わなかったか?」

 これ(・・)の、とまたフェルナーは胸を叩いた。

「聞いた。だが、彼女はひとりで陛下にお会いし、巫女姫様にお会いしている」

「だから僕が引っ込んでいられるんじゃないか」

 ふんとフェルナーは笑った。

「馬鹿なのか、お前は。少しは考えてみたらどうなんだ」

 どうにも侮辱的な言いようであった。だがルー=フィンは何も言い返さず、黙った。

「何が気になっているにせよ、ルー=フィン」

 仮面の男は肩をすくめた。

「あと半月もすれば、お前の疑問はみんな氷解するさ」

「半月だと? 半月後に何が判る」

「それは」

 くすりと、少年を内包した男は笑う。

「そのときまで楽しみにしておけよ」

 窓の向こうに昇りだした不気味に赤く丸い月を背にして、フェルナーは含み笑いを続けた。


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