表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻夜の影―シリンディンの白鷲・3―  作者: 一枝 唯
第1話 灰色の影 第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/206

11 ガキなんだよ

「兄妹の面倒を見ているのはルー=フィンであるとか」

「ああ、彼が連れてきたからね。僕からも頼んだ。気の毒な兄妹だ、できるだけのことをしてやってくれと」

「そうですか、陛下が」

「フィレリア殿は、エルレールともよく話をしている。フィレリア殿にも慰めになるだろうが、姉上にも気分転換になるだろう」

「可愛らしい娘さんです」

「うん、そうだね」

 ハルディールはうなずいた。

「とても……可憐な」

「陛下?」

「あ、いや」

 何でもないと少年は手を振った。

「もっとも、彼らに迎えがくるまでの間だ。僕は彼らを客人とするが、積極的に支援する訳にはいかない。……他国の事情だからね」

 彼は王として、そう言った。

「その辺り、ルー=フィンにもきちんと言ってあるが、あなたにも言っておこう。軽々しく何か約束をしたりすることのないように」

「もちろんです」

 ユーソアはうなずいた。

「ですが……」

「何だ?」

「いまのは、陛下のお言葉ですか?」

「どういう意味だ?」

「いえ」

 彼は謝罪の仕草をして続けた。

「アンエスカの声が聞こえたような気がしたので」

その通り(アレイス)

 ハルディールはうなずいた。

「言ったのは、アンエスカだよ。彼はルー=フィンにじゃない、僕に釘を刺したんだ。同情するのはけっこうだが立場を忘れないように、とね」

「頭の固い爺さんで困りますな」

 にやりとしてユーソアが言えば、ハルディールは苦笑した。

「彼の言葉はもっともなものだ。僕が子供だからと甘やかすことはないが、でも実際、子供であるから、細かく忠言をくれる」

「そう仰いますがね、陛下は団長の小言なんか、無視するだけの権利がありますでしょう」

「ないよ」

 ハルディールは笑った。

「それは、もちろん、国王の権力は騎士団長より強いさ。でも僕はアンエスカより弱いんだ」

 その冗談だか本気だかに、ユーソアは曖昧な笑いでも返すしかなかった。

「もっとも、兄妹の件より、本命はこっちなんです」

「本命だって?」

「ええ。ラシャ神官の件」

 ユーソアは肩をすくめた。

「陛下もご存知の通り、私は数年間、カル・ディアルの町で暮らしてきました。その間、八大神殿の神官とも交流があったのですが、彼らは神界七大神や冥界の神々、及び名を口にするも忌まわしい類以外には、興味なんて持っていないんですよ」

「興味を持ったらいけない、と決まっている訳でもないだろう?」

 ハルディールは首をかしげた。

「ラシャ殿は、興味を持ったんだ」

「個人の興味を追及して、研究をまとめる? そうした行為を成果として認めるのは、むしろ神殿よりも魔術師協会です、陛下」

「魔術師とも交流が?」

「いえ、あまり」

 ユーソアは首を振った。

「ですが、話には聞きます」

「あなたは、ラシャ殿が修行の一環として〈峠〉の神について知りたがるのはおかしいと言いたいんだね?」

その通りです(アレイス)

「だが、仮にそれが修行ではない、個人の興味だったからと言って、何か問題があるのか?」

「それは、シリンドル国王陛下ともあろうお方が、個人の趣味につき合うなどはいかがか、というようなことです」

「成程」

 ハルディールは納得したようにうなずいた。

「だが僕としては、かまわないと思う。僕は以前、タイオスと旅をしていたとき、すぐに神に祈るのを『狂信的』と言われたんだが」

「……〈白鷲〉が、そんなことを?」

そう(アレイス)

 かつての王子は笑った。

「それはタイオスがシリンドルのことを知らなかったためだ。何も大々的に宣伝する必要などはないが、他国の人間に〈峠〉の神を知ってもらうことは悪いことじゃないと思う」

「陛下がそのようにお考えなのでしたら」

 ユーソアは恭順を示す仕草をした。

「何だか引っかかっているみたいだね?」

「正直なところを申し上げてもよろしければ」

「もちろん」

 聞きたいなとハルディールは言った。

「『何も知らない余所者が、われわれの神を不遜にも研究などとは』」

「成程」

 王はまた言った。

「判らないでもない。ただこれは、外交の一種だよ」

「一神官です」

「そうだね。相手は国ではなく、神殿ということになる」

「『個人の興味』でも?」

「一個人でも、神官だ。あなたたちが〈シリンディンの騎士〉であるように」

「それは」

 ユーソアは降参するかのように両手を上げた。

「よく判る引き合いです、陛下。私は余計な口を出してしまったようですね」

「思うところを述べてくれるのは有難い」

 新しい騎士に、王は真摯に言った。

「意見は最終的に均質化させるものだ。最初から誰もが同じことを考えているなんて有り得ないのに、出てくる案がどれもこれも同じ方向を指しているなんて不自然だ。僕は王だからと言って僕の我を通すことはしないし、反対意見だからと言って処罰なんてしない。さまざまな意見をもらい、みなで考えてこそ、よい国で在ることができると信じる」

「……シリンドルは」

 ユーソアは姿勢を正し、ぴしりと敬礼をした。

「〈峠〉の神のもと、素晴らしい国王陛下を戴いていると感じます」


 ――なんてな、と男は呟いた。

「頑張ってるが、若い。いや、幼い。子供だ。ガキなんだよ、うちの王陛下は」

 ひらひらと彼は手を振った。

「何もそれが悪いとは言わないさ。この国は現状、平和なんだし。下手に野心溢れる王陛下がいて大国に喧嘩でも売ってみろ、〈峠〉の神の守りだけでシリンドルが守れるとは思えんね」

 顔をしかめて彼は言った。

「大国」

 女は呟いた。

「そう。たとえば、アル・フェイル」

 ユーソアは指を北東の方に向けた。

「あっちの王様は、広大な領土を持ちながら、隅々まで目を光らせてる。もしシリンドルに不穏な動きでもあれば、きっちり叩き潰しにくるはずさ」

「カル・ディアルはどうなの?」

「向こうの王様は」

 と、今度は彼は北西を指した。

「よくも悪くも凡庸ってところかな。貴族たちの勢力も強い。いまはみんな何となく王家に忠誠を誓ってるが、誰かが反乱でも起こしたら、それは意外と拡散し、鎮圧まではかかるんじゃないかと思う。シリンドルのことなんかは、知らないも同然だろうが、だからって何かあれば放っておくとも思えない」

「ふうん」

 女は相槌を打ったが、あまり興味がある風情ではなかった。

「じゃああなたの見込みでは、王陛下は、いまの意見を完全にひっくり返すこともあるってこと」

 大国のことより、女はシリンドルの国王について尋ねた。

「まあ、有り得るだろうな」

 ユーソアはうなずいた。

「意見に耳を傾ける。そう言えば寛容なようだが、要するに自信がないんだ」

 男は肩をすくめた。

「それにしても、客人にも神官にも不信感なしときた。大丈夫なのかね、あれで」

「そうしたところが、陛下と、そしてこの国のいいところではなくて?」

 たしなめるように女は言ったが、男は顔をしかめた。

「騙そうと思えば簡単だ」

「誰もそんなこと、しないわよ」

 女は笑んだ。

「そうよ、誰も」

「だといいが」

 ユーソアは肩をすくめた。

「でも、そんな話、ほかではしないのよ」

「ああ?」

「あなたを買ってくれている人がいることを忘れないように」

 忠告するように、女は言った。

「そうした話は、私だけに、話してちょうだい」

「判ってるよ」

 彼は片目をつむった。

「陛下や騎士団の話をするのは、あんたにだけだ」

「そうよ」

 優しい笑みを浮かべたままで、女はうなずいた。

「私だけ、ね?」

「ああ」

 あんたにだけだと繰り返し、ユーソアもまたそっと笑みを返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ