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幻夜の影―シリンディンの白鷲・3―  作者: 一枝 唯
第4話 神の影 第1章
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08 根絶やしにする

 その、少し前のこと。

 落ち着け、と言ったのは銀髪の青年だった。

「タイオス、お前らしくもない」

「は」

 言われたタイオスは笑った。

「俺らしいってのは何だ? お前はそんなに俺をよく知ってるか。短いつき合いだってのに」

「おいおい。彼にまで挑戦的になることはないだろう」

「そんなつもりは、ないがね」

 師匠の言葉に鼻を鳴らした中年戦士は、彼の腕を掴むルー=フィンをじろりと睨んだ。

「放せ」

「いいや」

 ルー=フィンは首を振った。

「俺も、いまとなっちゃお前をよく知っているとは言えんな。だが俺に言わせれば」

 モウルは首を振った。

「いまのお前は、十代のガキの頃みたいに、短絡的だ」

「む」

 これにはタイオスも詰まった。

「イズランの話が本当にだって保証がどこにある?」

 もはや「術師」と丁寧に呼ぶことはやめてモウルは問うた。

「ないと言やあ、ない」

 それは判ってるとタイオスは呟いた。

「俺はどっちかってえと、あいつを嘘つき野郎だと思ってるくらいだ。だが……だがな、こういう嘘をつく奴じゃないとも、思ってる」

 人の生き死にについて出任せを言うことは、まずしないだろう。それらしい言い方をして誤解を招き、あとで「そんなことは言ってませんよ」ととぼけるようなことは十二分に有り得たが、魔術師ははっきりと告げた。

 死んだ、と。

「奴の嘘は、これだ。『言いにくかったからこられなかった』。ありゃあ」

 嘘だ、と彼は言い切った。 

「俺を動かすための情報、切り札として、大事に取ってたのさ」

 五日ほど前のことだと言う。つまり、サングも知っていたと見るべき。

 だがサングに騙されたとは思わない。

 この魔術師たちが信用ならないこと、タイオスは決して忘れていないからだ。

「判ってるんじゃないか」

 老人は呆れた口調で言った。

「このタイミングで、お前に知らせた。このタイミングで、お前を動かしたいからだ。それも、そこの、麓の神殿とやらにな」

「何のためか」

 ルー=フィンが言った。

「灰色ローブの掃討のためだ。タイオス、イズランはお前の剣と〈峠〉の神の加護を利用して、神殿にいるという魔物を一掃させようと」

上等(アレイス)

 タイオスは口の端を上げた。

「ソディエだったな。根絶やしにしてやる」

 声を荒げるでもなく、戦士はぼそりと言った。老戦士と若い剣士は顔を見合わせる。

「あのな、ヴォース。復讐心なら、的外れだと判ってるんだろうな?」

「お前の言うことは、タイオス、たとえばそれが私であれば、ヨアティア憎さに、麓の神官や僧兵まで皆殺しにすると言っているようなものだ」

 自らに冷静になぞらえて若者は言った。

「全然、違うだろうが」

 タイオスは「そうだな」とは言わなかった。

「ミキーナとレヴシーを刺したのはヨアティアで、僧兵や神官はわざわざ誰も殺す気なんかなかった。だがソディエどもは、誰でも殺す」

「たとえ話なら、それより」

 モウルはルー=フィンの事情を知らないながら、だいたい推測をして、口を挟んだ。

「〈コールバの長い旅〉だな。山赤狼に恋人を殺されたコールバが、世界中の山赤狼をぶち殺してやろうと旅する話」

「だったらどうだってんだ」

 タイオスは気にしなかった。

「ソディエどもを根絶やしにするのは」

 と言いながら彼は、モウルから返された袋――砕けた護符の残りが入ったそれを指で弾いた。

「神様の意にも適うさ。何しろシリンドル国民を守ることになるんだからな」

「だからそれが」

「イズランの企みだと」

「そうであろうとかまわねえと、俺は言ってんだ」

 タイオスは遂に、ルー=フィンの手を振り払った。おとなしく掴まれるままでいたタイオスが急に力を振るったため、さすがの天才剣士もそれを放してしまった。

「俺は行く。気が向いたら手伝ってくれ。嫌ならかまわん。それじゃな」

「タイオス!」

「ガキならまだ可愛げがあるが」

 モウルは呟いた。

「四十男があれでどうする。せっかく俺の話もしてやったのに、ちっとも届いとらんとは」

 彼は息を吐いた。

「俺ぁ現役を離れて長い爺だが、できる限り手助けする。すまん、セレディア」

 モウルは誰かに謝罪した。

「ルー=フィン、お前さんは」

「私も――」

 彼は僧兵を連れて巡回するよう、指示を受けていた。だが神殿に魔物がいるのであれば兵を連れ出すどころではないし、タイオスのことも放ってはおけない。

「いや」

 モウルは首を振った。

「別行動を取ってくれ」

「と、言うと?」

 ルー=フィンは困惑した。「一緒に戦ってくれ」ならば彼の得意分野であるが、それ以外と言われてはどうしたらよいものか見当がつかない。

「三人でのこのこ出向いて三人とも殺されたり、捕まったりしても馬鹿らしいだろう」

 モウルは肩をすくめた。

「だが……」

「お前さんの才能は、さっき見せてもらったよ。俺とヴォースがどうしようもなさそうだったら助ける役をやってくれ」

「しかし」

 ルー=フィンはいまひとつ納得いかない様子で何か言おうとしたが、モウルは聞く耳持たず、タイオスを追いかけた。


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