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幻夜の影―シリンディンの白鷲・3―  作者: 一枝 唯
第3話 幻夜の影 第3章
126/206

12 そんなつれないことを

 幽霊屋敷は、静かなものだった。

 本当にそこに灰色ローブのソディエたちがいるのかタイオスは確信が持てないままだったが、乗り込む訳にも離れる訳にもいかない。木影でじっと見張りを続けながら、騎士たちの誰かが戻ってくるのを待つしかなかった。

「――タイオス」

 声をかけられて彼は振り向いたが、そこにいたのはユーソアでもルー=フィンでもクインダンでもなかった。

「ヴィロン」

 戦士は意外に思って目をしばたたいた。

「どうしたんだ」

「様子を見にきた」

 コズディム神官は簡潔に答えた。

「おいおい。あんたにはハルのことを見ててくれなくちゃ……」

「見ていてどうなると言うのだ? 同じ手はもう使えない」

「護符のかけらなら、まだ……」

 タイオスは破片を引っ張り出そうとしたが、ヴィロンは首を振った。

「同じ手を使ったところで意味がない、と言い換えよう。エククシアと言ったか、あの魔物は必ず対抗手段を用意してくる」

「対抗手段ってのは、どんな」

「判るはずもない」

「まあ、そうだよな」

 馬鹿なことを訊いた、とタイオスは口の端を上げた。

「ん? 何で俺のいる場所が判った? ユーソアが戻ったにしちゃ早いな。じゃ、もしかしてクインダン……いや、違うな」

 クインダンが館に戻ったのかとタイオスは一(リア)思ったが、それでは説明がつかない。クインダンがタイオスの帰還を聞いたとしても、ユーソアが戻らなければここで彼が見張りをしている確証などないはずだ。

「お前の言った通りだ」

 ヴィロンは答え、タイオスは顔をしかめた。

「はあ?」

「お前は自分が何を持っていると言った?」

「護符の、かけらってことか?」

 いましがた話したことと言えばそれしかない。

その通りだ(アレイス)

「ああ、そう言やラシャが、自分の力を込めた魔除けを持ってるからリダールの居場所を探れるとか何とか」

 壊れた護符もヴィロンにとっては同じ役割を果たしたということか。タイオスはそう理解した。

「んで?『様子を見にきた』のは俺の? それとも」

 戦士は建物を指した。

あれ(・・)の?」

 探りを入れる意味で、彼は尋ねた。「あの場所にソディエはいるか」という質問でもあれば、「この神官にはそれが判るのか」という疑問の答えを求めてでもあった。

「――渦巻いている」

 ぼそりと神官は呟いた。

「ほかなる力を溜めている」

「はあ?」

「幻夜とは」

 それからヴィロンは、タイオスが気にする一語を口にした。

「裏を表にする夜。闇の眷属が力を増すのなら、彼らはそれをとどめたいと思うものではなかろうか」

「はあ?」

 タイオスはまた言ったが、「何の話だ」「判るように言え」等々と苦情を発するより前に、ぱちぱちと手を叩く音がした。

「これはまた、なかなかご立派な見識です。いや、皮肉なんかじゃありません。本気で褒めてるんですよ」

 その声に、タイオスはこれ以上ないほど顔をしかめた。

「イズラン! てめえ!」

「おっと、あまり大声は出さない方がよろしいんじゃないですか」

 灰色の髪の魔術師は、にこにこしながら指を一本立てて唇に当てた。タイオスはうなった。

「魔術師か」

「ええ、魔術師です」

 イズラン・シャエンは認めた。いつも身につけている黒ローブは彼の素性を示したし、そうでなかったとしてもその魔力は神官にもまた隠せない。

「魔術師が、何の用だ」

「そうだ、何の用だ」

 タイオスはヴィロンに乗るようにして尋ねた。

「また見物か? ただ見はさせんと、前にも言ったと思うが」

「おや。そんな態度でよろしいんですか」

 イズランは鼻を鳴らした。

「私の手が、ご入り用なんじゃありません?」

「てめえの手を借りるくらいだったらサングの方がなんぼかましだ」

「どうしてまた、そんなつれないことを。いつだって、積極的にお助けしているのは私だと思うんですけれどねえ」

 首を振ってイズランは息を吐いた。

「サング導師は、話しませんでしたか? ソディエの侵略を阻止すべく、私が身を粉にして働いていることを」

「話半分、いや、五分の一くらいでなら聞いといてやった」

 タイオスは唇を歪めた。

「――対抗策があるのか?」

「確たるものはないんですね、それが」

 魔術師はあっさりと肩をすくめた。戦士は顔をしかめる。

「役立たずめ」

「酷いですね、いつもながら」

「本当のことだろうが」

 タイオスは容赦なく言った。

「お前とサングは、いち早くソディエどもの台頭に気づいていたと言う。そりゃ気づかないよりはましだ。だが『前から知っていました』としたり顔で言われたって、何にもならないんだよ」

「ごもっともです」

 イズランは神妙な顔つきをした。

「ところで、リダール殿なんですがね」

「リダールがどうした」

「彼が巧いこと協会と神殿を行き来してくれたおかげで、どちらの組織もやや焦燥感というものを持ちはじめました」

「ちなみに、どっちの意味だ」

 タイオスはしかめ面で尋ねた。

「先を越されちゃうちの沽券に関わる、ってな意味か。それとも真っ当に、いがみ合ってる場合じゃないと気づいたってことか」

「ま、両方ですね。協会も神殿も、一枚岩じゃありませんので」

 ひらひらと魔術師は手を振った。


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