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金魚の夢

作者: 井上幸之介

 あたしは昔っから金魚って魚が嫌いだ。大嫌いだ。

 



 小さい頃から世話になってる店の玄関先で、数匹の金魚が飼育されていた。どこかの商人から質が良いのを高値で買ったんだとかで、オーナーがよく自慢していた。

 金魚たちはその自慢に相応の姿だった。赤に白に黒に橙の美しい色の身体、背びれも尾ひれもひらひらと水を揺蕩い、まるで魚が美しいドレスを着て踊っているかのようだ。


 物心ついたときには優雅に泳ぐ金魚たちを見るのが日課になっていた。

 右へ行って壁に辿り着けば、反転して左へ行く。そして左の壁に辿り着けば右へ行く。ただただ、左右に往復していく金魚たち。


 そんな金魚たちをイライラしながら見ていた。金魚たちが、憎かった。憎らしかった。

 死んだ目でひたすら泳ぐその様子があたしっぽかったから。自分を見ているようで、自分の人生を暗示しているみたいで。見たくもないのに、不思議と目が離せなかった。

そんな些細な事にも苛立ちが募った。

 



 そんな怒りの感情は自分でも知らない内に積み重なっていったらしい。

 その日は踊りのお稽古が上手くいかなくて酷く怒られた。死ぬほど努力した。ここで生きていく為に。それなのに成果が形となって表れてくれない。ぐつぐつと腹の奥で炎が燃え滾っていた。


 日課通りに金魚を見つめた、その時、1匹の金魚と目が合った。死んだような目に。

金魚の空虚な瞳に憐れまれた気がした。

 かっ、と頭に血が昇って、金魚以外のことを考えられなくなった。


 私は、金魚が入った水槽を持ち上げると、そのまま店の中庭にある池に水槽の中身を投げ入れた。ざばん、という水の流れる音と共に数匹の金魚が濁った池の中に放り込まれた。

金魚はひれを漂わせて池の中を泳ぎ回り始めた。その姿は少し自由そうに見えた。



 しばらくして、金魚は死んだ。

綺麗な水でしか暮らしたことのない金魚が、汚い池で生きていけるはずがなかった。



 あたしは見てしまった。池に浮かんでいた金魚の色が変色していたことを。鮮やかで美しい色だったのに、くすんだ汚らしい色になっていた。醜かった。

 でも、あたしにとってはその醜い金魚が眩しく見えて羨ましかった。生を終えたのに、水槽の中よりも、金魚の目がずっと輝いていたから。





 今日もあたしは客の前で踊りを披露する。

きっと、あたしはここででしか生きていけない。けれど、あたしは必ずこの箱から出ていくだろう。どんなあたしになったとしても。


 見目が良いだけの金魚は嫌いだから。


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