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月野郵便、今宵も配達中  作者: 百川 凛
3.家族のカタチ
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12

「ただいまッスー!」


 入口から元気な声が聞こえてくる。宇佐美は瞬時に眉根を寄せた。


「うるさい、来客中よバカ狐」


 キュッとくびれた腰に両手を当てて仁王立ちすると、怒ったような声色で言った。


「来客中? あ、ホントだ!」


 扉からひょっこりと顔を出したのは、派手な銀色の頭をした男の人だった。彼を皮切りにぞろぞろと人が入ってくる。


「…………静香さん?」

「……え?」


 ぱっと顔を上げると、そこには見知った顔がひとつ。


「……和也さん」


 そしてその隣には、ひどいしかめっ面をした優也の姿があった。


「優也くん!!」


 静香はその姿を見つけると、慌てて優也に駆け寄った。


「あっ……えっと、郵便局の人が優也くんがここに居るって教えてくれて、それで、連れてきてくれたの。優也くんは嫌だったかもしれないけど……」


 優也は何も言わない。眉間にシワを寄せて視線をそらすばかりだ。周りはその様子をハラハラしながら見守っていた。すると、静香が突然、優也に向かってぺこりと頭を下げた。


「優也くん、ごめんなさい。ずっと嫌な思いさせて。図々しく家にまで上がり込んで、母親面してごめんなさい」

「……は?」

「でもね、私、和也さんのことが好きなの。気持ちだけは透子さんに負けないくらい、和也さんのことが好き。優也くんは私のことなんて嫌いだろうけど……でも、私は優也くんのことも大好きなの。優しくて家族思いの良い子だと思ってる。私、透子さんには到底敵わないって分かってるけど、でも、一番に近付けるように私なりに頑張るから。だから、だからね。私、みんなと家族になりたい。今すぐじゃなくていい。ゆっくりでいいから、時間をかけて、四人で家族になりたいの」

「四人……?」

「えっと、和也さんと優也くんと透子さんと……私……なんだけど……ダメかな? あっ、さすがに図々しかった!?」


 優也は目と口をポカンと開けたまま静香を見ていた。それから面倒くさそうにガシガシと頭を掻くと「バッカじゃねーの」と言いながら静香を強く睨む。


「オレ……あんたのこと認めた訳じゃねぇ」

「……うん」

「母さんだとも思わないし、母さんの代理だとも思えない」

「……うん」

「でも……別に……あんたのこと……嫌いなわけでは……ない」

「…………え?」


 今度は静香が目と口を開ける番だった。ポカンとした間抜け面のまま、優也をじっと見つめる。


「あんたが父さんのこと本気で好きなのは見てればわかる。こんなに反抗的なオレにも優しくしてくれてたし、母さんに負い目を感じてるのも、それでも頑張って母さんみたいになろうとしてたのも、ホントは全部知ってたよ。だから……別に嫌いなわけでは……ねーよ」

「ゆ、ゆうや、くん」

「……悪かったよ。今まで嫌な態度取って。これからは、まぁ、なんつーか。そこまで目の敵にはしない……はず。母さんにも怒られたばっかだしな」

「ゆ、ゆう、やく~~ん……」


 静香はボロボロと大粒の涙を流した。


「か、勘違いすんなよ!! あんたのこと認めたわけでも、ましてや好きなわけでもないんだからな!! さっき母さんから手紙が届いて、母さんが、母さんがそう言うから……!!」

「うん、うんわかってる! 優也くんありがとう!」

「……つーか泣くなよ。ほら、父さんもなんか言ってやれって!」

「ううっ……くっ、優也、大人になったなぁぁぁあ。透子見てるか? 優也が成長してるよ!」

「ああもうダメだ!! 収集つかねぇ誰か助けろ!!」


 そう言って額に右手を当てる優也の目にも、キラリと光る雫が見えた気がした。


「月野さん」


 二人の元から離れると、和也は真っ直ぐ月野に声をかけた。そして、一通の封筒を差し出す。


「これ、透子に届けてやって下さい。俺の気持ちがこもったラブレターです」

「かしこまりました。必ずお届け致します」

「よろしくお願いしますね。……それと、うちの家族が多大なるご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ございませんでした。だけどおかげで一歩前進出来た気がします。……本当にありがとうございました」


 和也が深々と頭を下げる。奥では静香と優也も同じように頭を下げている。


「迷惑だなんてとんでもない。僕たちはそんなこと思ってませんよ。また何か届けたい物があればいつでもお越しくださいね」

「ええ、もちろん」


 優也がダダダッと走ってきて、和也の隣にちょこんと並んだ。


「……迷惑かけて悪かったな。色々ありがとう。月野さん、宇佐美さん。ついでに七尾!」


 視線をさ迷わせながらそれだけ言うと、照れくさいのか「行こうぜ!」と慌てて三人に背を向ける。


 ひらひらと手を振る月野と宇佐美の隣で、七尾はわなわなと震えていた。


「なんでオレだけ呼び捨て!? てかついでって何!? 納得いかないんスけどぉぉ!!」


 狭い室内には、七尾の悲痛な叫び声が木霊する。

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