↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

真犯人を追う~①

 寺畑の周辺を洗い直す方針に立ち戻ったとはいえ、烏森が指摘していたように、CS本部や捜査二課を刺激するのは良くない。

 本当ならば、前回取材できなかった渡辺に話を聞いておきたかった。しかし白通社員の彼に再度接触しようとすれば、現在まだ調査中である二課の捜査員達に気付かれるだろう。

 一度は重要参考人として目を付けられた人物だ。今度は何をするつもりなのかと、彼らを警戒させかねない。

 そこで警察の動きに注意を払いつつ、寺畑を含む白通の社員以外で、今回の情報漏洩により得した人物がいないかを調べ始めた。

「まず疑うとすれば野党の政治家だ。しかしそこまで大胆な犯罪をするかといえば、首を捻らざるを得ない。須依はどう思う」

 烏森の問いに答えた。

「まだ見ぬ犯人が寺畑と繋がりを持っていたのなら、やはり反社等を含む犯罪者集団を疑うべきでしょう。もちろん彼女が海外の犯罪集団のスパイである可能性は排除できません。ただそうで無いと仮定すれば、何か弱みを握られ協力したと考えるのが自然です」

「なるほど。通常なら彼女の人間関係や家庭環境を含め、これまで歩んできた足取りを追いたいところだ。しかし今は止めておいた方がいい。それにその点は警察や他のマスコミも調べているだろう」

「そうですね。その結果がある程度出て情報が手に入るようになれば、取材対象を絞れます。それまでは別の筋を追いましょう」

「それが反社または関連の犯罪集団か。そこまで言うのなら心当たりがあるんだろうな」

 須依は頷いた。

「今回の事件の中心にいて舞台となったのは白通です。狙われた政治家達も、あの企業との関わりを疑われ苦境に立たされています。寺畑はそこの社員で、中条という経理部長を追い落としましたよね」

「ああ。寺畑の供述を受けて彼は社内調査の対象となり、部長から課長に降格させられるだろうと噂されている。それで彼女の気が晴れたかどうか不明だが、ある程度の復讐はできたといえるだろう」

「はい。もちろん別に黒幕がいて、ほとぼりが冷めるのを待ち彼女に成功報酬を払う約束があるのかもしれません」

「あり得るな。確か須依は、寺畑の逮捕が最初の一手だと言った。あの件で犯人に身代金の一部が支払われていたら、報酬が発生していても不思議ではない。中条への復讐に加えまとまった金が手に入る約束だったとしたら、逮捕される覚悟で犯人役になった可能性も出てくる」

「政治家との癒着だけでなく、社員情報も手に入れられるほど深い関係がなければ今回の計画は立てられません。だったら白通と繋がりがあると噂されていた反社を、まず当たるのはどうでしょう」

「いいだろう。白通はライバル社に差をつけられ業績が悪化し始めたから、仕事を得ようと政府筋に近づいた。広告代理店のような地方等で開くイベントが絡む仕事を受けていると、古くからの習慣が残っているせいで反社との付き合いから逃れられないと聞く」

 反社などの締め付けが本格的に厳しくなったのは、一九九二年に施行された暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律、いわゆる暴対法がきっかけと言われている。

 その後各自治体で次々と暴力団排除条例が規定された。よってバブル期以降に入社した多くの社員は、反社との接点がほぼ無いと考えていい。

 ただそれ以前に入社した者や関係が深かった会社等は、悪しき慣習を引きずったまま、抜け出せない場合もあるという。白通もその中の一社だ。

「そこです。しかし近年は警察の引き締めが厳しくなり、手を切る企業が多くなりました。白通もそうだったはずです。だから反社はそうなる前にまたはその恨みを晴らそうと、大胆な犯罪を仕掛けたのかもしれません。もちろんここまでは憶測に過ぎないですけど」

「いや、以前噂になった時に二人で少し調べたことがあったな。その際に名前が挙がった反社のフロント企業の中で、確かIT関連の会社があったはずだ」

 息を弾ませ名を出した彼に、須依は同意した。

「はい。私も同じことを考えていました。あの時は珍しいと思いましたが、そういう時代なのだと納得しただけでした。でも今回の件に絡んでいる可能性を考えれば、そこが怪しいと頭に浮かびました」

「よし。当たってみよう。警察の捜査が既にそこまで及んでいたら、須依の推測は間違っていなかった証明になる。もしまだなら、俺達が動いても目を付けられる心配はない」

 乗り気になった烏森の声を聞き、須依は安堵した。いくら頭を働かせても、希少な理解者である彼の協力が無ければ取材はできない。二人は今や、切っても切れないパートナーだ。よって互いが進むべき方向が定まれば、これ程心強い事は無かった。

 まず須依達が取り組んだのは、神葉(しんば)愚連隊(ぐれんたい)の組織と構成員達の把握に加え、現在の活動状況についての調査だった。神葉愚連隊の前身は、かつて神奈川と千葉に拠点を置いていた的屋(てきや)である。

 的屋とはお祭り市場などが(もよお)される際、お寺や神社の境内または参道、門前町に出店する屋台や露店の街商を指す。今は少なくなったものの、かつては大道芸(だいどうげい)で客寄せして商品を売る、あるいは芸そのものを生業(なりわい)とする大道商人なども含まれていた。

 よって芸能関係と繋がりが深く、イベント等の開催には欠かせない存在だ。多くの人が集まりお金も絡むとなれば、トラブルは起きやすい。そうした問題を解決する役目も、彼らは果たしていた。

 そうした経緯から、利権や縄張り争いを力でねじ伏せようとする団体も出て来た。そうして暴力団へと派生した反社会的勢力の一つが彼らだ。そこが白通と繋がっていると噂されていた。

 過去に神葉の幹部と白通の役員が、夜の街で一緒に飲み歩いていた写真が流出した。その際白通は会社として会見を開き、偶然声をかけられただけで面識や交流はないと疑惑を否定している。

 しかしその役員はしばらくして会社を辞め、姿を消した。よって真相は闇の中となったのである。そうした経緯を知っていた為、須依達は彼らに目を付けたのだ。

 それだけではない。表面上は堅気として働いている形式を取り、神葉愚連隊と裏で繋がっているフロント企業の中に、株式会社センナというIT企業があったからでもある。

 そこの社長である藤原(ふじわら)という人物は、神葉愚連隊の実質的な幹部の一員らしい。経歴も変わっていた。東京大学工学部を卒業し、その後アメリカに渡ってMIT(マサチューセッツ工科大学)に入り卒業したという。専門は寺畑と同じ情報セキュリティという点から、高いハッキング能力を持っていると考えていい。

 彼は日本に戻った後、何故か暴力団に身を寄せIT技術を買われ、フロント企業を立ち上げたようだ。表向きは中小企業を中心とする情報セキュリティ対策ソフトの提供、及び社内システムの効率化を図るソフトを販売している会社だった。

 今や暴力団員がネット動画を配信し、そこから収益を得ている時代だ。かつてのシノギは世の移り変わりに合わせ、どんどん変化している良い例だろう。その為ネットは反社にとっても欠かせない存在といえる。

 彼らが不正アクセスをし、今回の事件を画策したと考えれば理に適う。その為須依達はこれまで東朝新聞で扱った神葉愚連隊及びセンナに関する資料や、取材に関わったと思われる記者達から情報を集めた。

 さらに餅は餅屋ということで、暴力団を主に扱う警視庁の組織犯罪対策課の刑事にも話を聞いた。東朝でも政治部とは違って社会部の記者が主だった為、須依達が動いている案件と情報漏洩事件とを関連付ける記者はいなかったからである。 

 お役所というのは縦割り組織の体制が顕著な組織だ。警視庁でも同一事件を追う合同捜査をしていない限り、部署が異なれば横の繋がりはほとんどないと言われている。

 そうしたおかげもあってか神葉関連について尋ねた際、幸いにも警戒されずに済んだ。つまり警察による捜査では、まだ反社が係わっているとまで至っていない証拠でもあった。

 しかし須依達がこれまで係わってきた事件で、組対(そたい)課と絡む機会は少なかった為、現場の刑事に余り知られていないだけかもしれない。既に上の方では連携し、動いている可能性もあったので油断は出来なかった。よって慎重に取材を進めていたのだ。

 決して気を緩めていた訳ではない。情報漏洩という知能犯事件の性質を持っているとはいえ、反社が絡んでいるとなれば身に危険が及ぶ覚悟はしていた。

 だからこそ周辺情報を念入りに調べた上で、センナの動きを探ろうとしていたのである。

 けれど相手は大物政治家や官僚達に揺さぶりをかけるという、国家を敵に回す大胆な事件を引き起こした犯人である。よって相当な警戒網を敷いていると予測すべきだった。

 センナの本社がある神奈川に向かい車を走らせ、近くの駐車場に車を停めて降りた途端だった。

 不穏な気配を感じたと同時に、駆け寄ってくる数人の足音が聞こえた。須依は危険を察し、咄嗟に扉を開けて車内へと逃げ込んだ。烏森もそうしようと考えたに違いない。だが間に合わなかったのだろう。

「ギャッ」

という彼の叫び声がして、そのまま地面に倒れたようだ。けれども車のキーを持っていた彼は、二人が置かれた状況を把握したと思われる。須依まで襲われないよう、外からリモートで扉を閉めたのだ。

「コラッ、出てこいや!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。