表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/64

過去の因縁~①

 翌日の東朝新聞の朝刊においてトップではないけれど、須依達の書いたスクープ記事が社会面の一部を飾った。

 さらに詳細な関連記事に加え、烏森の隠しカメラで撮った警察に連行される決定的瞬間や、彼女が罪を認めた場面の動画と写真の一部は、新聞社のデジタル版で無料公開された。

 他社を出し抜いた内容に、世間は素早く反応し大騒ぎとなった。おかげでアクセス数が一気に上昇し、放送局各報道番組などによる映像素材の提供依頼も殺到したという。その使用料だけでかなりの額に上ったらしい。

 当然だろう。これまでどこも察知していなかった、白通社員が機密情報に内部から不正アクセスしていた事実を白日の下に晒したのだ。しかも犯人が罪を認める瞬間を捉えたインパクトは大きかった。

 さらに犯人の動機が、以前から問題視されていた社内の体質によるものと指摘し糾弾しただけでなく、外部から不正アクセスした疑いまでかけられている点に言及していたからだろう。

 そうした影響もあり、後塵(こうじん)(はい)した多くのマスコミは少しでも遅れを取り戻そうと躍起(やっき)になって動いた。そこで二課やCS本部も、捜査の進捗状況をマスコミに対し公表せざるを得なくなったらしい。

 そこで寺畑が所持するパソコンから海外のサーバーを経由し、ハッキングしたと思われる証拠が出てきたと発表された。その上、今年三十歳になる彼女は大学で情報セキュリティを学んでおり、国際的な認証資格を所持していた事実も明らかとなった。

 白通エージエンシーの中にも、彼女の高い能力を活かせるシステム部門がある。そこに彼女は入社時から五年間所属していたようだ。にもかかわらず、何故か中条が経理部長になった直後の六年目から、経理部に異動したらしい。

 たまたま経理関係の資格も所持していたというが、それだけではなかったのだろう。彼女が女性というだけで受けた差別ではないか、との憶測も飛び交っていたようだ。

 彼女はそれでも懸命に働き、仕事ができると評判も高かった。しかし不満が募り、また所属先の部長によるパワハラやセクハラに彼女の我慢の限界は超えた。

 その為ハッキングしてシステム障害を起こし、情報漏洩させたと見せかける大胆な行動に出たのではないか。けれどそれでは逮捕された場合の罪が大きくなる為、実際には偽物のリストを公表した。

 そうした後追い記事が世間に出回った。実際警察の捜査もその線で進んでいるとの報道までされたのである。

 けれどそうした当初の想像を超える事件の展開と見解に、須依は疑問を抱き始めていた。

「情報の一部が漏洩した時、政治家や官僚達との癒着が疑われる大きな事件が起こったと誰もが思いましたよね。しかし蓋を開けてみれば個人的な恨みから起こした事件だったなんて、どうにも締まりません。しかも一社員に過ぎない寺畑個人が百億円の身代金まで要求していたとすれば、余りにも度が過ぎています」

 烏森も同意した。

「確かにな。世の中の関心が中条部長によるハラスメントや、会社の体質自体の問題にすり替わってしまっている。漏洩されたリストも、会社が主張していた通り偽情報だと報道されたからだろう。あれほど必死に追いかけていた政治家や官僚について、マスコミはほとんど触れなくなった。もちろんパワハラやセクハラは大きな社会問題だ。しかし官民の癒着の件が全くなかったとは信じられない。この流れは少しおかしいな」

 彼の言う通りなのだが、須依の関心はやや違った。

「それもそうですけど、個人の私怨だけにしてはやり過ぎでしょう。それに私達が追及しただけで、割と素直に認めたのも納得がいきません。しかも事件発生から一カ月以上経ったこのタイミングですよ。社内から不正にアクセスしただけなら分かりますが、外部からの不正アクセスや情報流出まで彼女の仕業だったら、そう簡単に認めなかったはずです」

「俺達もそこまでは考えていなかったからな。予想外だったよ。だがおかげで今回のスクープ記事は大きな反響を得たし、社長賞と金一封も出た。須依だって依頼料が上乗せされただろう。あれはあれで置いといて、次は当初の目的だった政治家達の取材をすすめようじゃないか。百名を超える具体的な人名まで挙がっていながら、全て偽の情報だったとは考え難い。他が手を付けていない今こそチャンスだよ」

 彼にしては切り替えが早い点に違和感を覚えた。とはいえ言い分に間違いはない。それでも異議(いぎ)(とな)えた。

「もう少し寺畑を調べた方がいい気がします。絶対何かありますよ」

 しかし彼は反対した。

「もうあの件は良いだろう。外部からの不正アクセスと情報漏洩については、CS本部を中心に洗い直しているはずだ。それに須依が動いた件で、佐々参事官は目を付けられたそうじゃないか。これ以上刺激すれば、今後の取材がやりにくくなる。それより疑惑のある政治家達をこのままのさばらせる方が良くない。そうだろう」

 そう言われると反論できなかった。元々佐々から井ノ島の名を聞いたからこそ寺畑にまで辿り着いたのだ。もちろん彼の名や二課の八城から情報を得た件は、烏森以外知らない。

 それでも社内不正アクセスだけでなく、外部からアクセスした犯人確保に意図せず深く関わってしまったせいで、事前に接触したと周囲に知られている佐々達は、窮地に立たされたようだ。

 実際佐々に呼び出され直接激しく(ののし)られた。CS本部としても彼女の経歴から事件の関与を疑い、上層部の圧力から逃れつつ慎重に調べを進めていたらしい。そうした地道な捜査の結果、ようやく逮捕状が取れそうな証拠を掴みかけていたという。

 そんな時、一記者に先んじられて彼女を任意同行し、緊急逮捕せざるを得なくなったのだから面目は丸つぶれだ。よって今後しばらくは、一切の接触を禁じられたのである。

 また烏森の協力を得られなければ、取材を進めるにしても須依一人では限界があった。だからといって、今更他の記者に依頼するのも気が引ける。

 その上東朝新聞から受けた依頼は、情報漏洩で名が挙がった政治家や官僚達への取材だ。今回は副産物として大きなスクープをものにしたから良かったが、本来なら依頼された以外の取材を優先するなど許されない。記者クラブへの入館証を渡されている以上、フリーとはいえ道義(どうぎ)に反するからだ。

 その為不本意ながらも烏森の判断に従い頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ