花家の若者達と制服
花家の若者達は、天海号入港2日前に、ペンペンの天河館の付属のホビット寮(と呼ぶことになった住居)に入寮した。
到着した初日は 旅の汚れを落としたり、住み心地よくするためのアレコレで終わった。
翌日は 洗濯デーだ。
幸いにも空堀の中は日当たりよく、風通しも良く
人目を気にすることなく干し放題。
ついでに言うと、夜は満天の星の下で露天風呂を楽しむこともできる。
水汲みはちょっと大変だが、
水運びで汗をかいても、湯を沸かすときに 髪が少々煙くさくなっても
すでに旅の汚れがついているから、
入浴時にまとめて落としてしまえば問題ナッシング。
スペースだけは贅沢にあるから、豪勢に場所どりをして 伸び伸びと作業ができた。
2日続けての入浴も楽しめた。
おかげで それまで空っぽだった排水池には かなりの水がたまった。
もちろん 池の上部には防水布で蓋をして、虫が入り込んで産卵しないように対策した。
◇
天海号が入港してくる日には、みんな こざっぱりした服装でペンペンの港まで行った。
ウマイヤの案内で、御領主様の帰還式典がよく見える位置から見物することができた。
天海号の船員達の制服を見て、頑張って彼らの服を手縫いしたかいがあったと一同は思った。
なにしろ 船大工や操船経験のある年寄連中は、天海号の出港準備に沸き立っていたが、船の運行にかかわる技術を持たない若者たちは、乗り組員たちの制服づくりに追われていたのが、ここ半年の花一族であったから。
ふだんのテスト航海ならば 船員達の服装は自前。
しかし今回は ウン百年ぶりの天海号の航海ということで、
船員達には制服を着せ
長期航海に備えた着替えも必要ということで、
制服のデザインを考え、それに合わせた生地や服飾小物を用意して縫製
「ハイ~ 造船だけじゃなくて 服作りまで 俺達の仕事なんすかぁ~?」
「しかたないだろ、極秘任務だから」
「なんで 機織りまで?」
「急なことゆえ 買い付け先を見つけられなかったんだよ。
ここまで 運んでくる足も不十分でさぁ」
と言った具合に 天海号の出航前の花家の村は てんやわんやだったのだ。
出航後も、制服などの縫製は続いた。
帰りの船旅の寄港先に、洗い替え用の制服をあらかじめ送り届けておくために。
だからこそ、予期せぬ仕事に精出す羽目になった若者達の慰労もかねて
ペンペンへのご招待旅行と相成ったわけである。
一応 花家の者は、船上暮らしのために、男女の区別なく裁縫などの技を身に着けていたので、機織りも服造りも 男女の区別なくできた。
だから、このような事態にも対応できたのだ。
というわけで、自分達が総出で作った制服をびしっと着こなして、
甲板にずらっと並んだ天海号乗務員たちの雄姿を見たときには、
「うーん 制服姿って かっこいいなぁ」
「採寸や 仮縫いで追われていたので、完成後の制服を着用した人の姿をちゃんと見てなかったけど・・ わりといい感じ。」
「揃うと 壮観だねぇ」
とあらためて思ったしだい。
なにしろ 隠れ里から 天海号が出港するときは、だれも制服を着ていなかったから。
(船員達が 制服を着るようになったのは、ジョーダンに入港する直前でした。
なにしろ 行きは無寄港の船旅だったので、極力 洗濯の手間を減らそうと
見た目よりも実用性を最優先した服装だったのです)
※ 土日休日は 朝8時
月~金は 朝7時の1回投稿です




