雇用条件に関する裏話
一人で鬱々としていてもはじまらないので、馬に乗って街にでかけることにした。
しかし 厩の前でセバスにつかまった。
「お嬢様、今は一人で外出なさらないでくださいませ。
世間知らずのお嬢様が 一人で外出なさるなど 心配で心配でこのセバス倒れてしまいます」
「まだ 若いのに じじむさいことを言う」
「なんのなんの お嬢様が生まれてこれまでに起きていらした時間に比べれば
わたしは その20倍くらいの時間 起きて経験を積んできましたから」
「ひどいことを言うわね」
というわけで セバスに誘導され 執務室に連れて行かれた。
そこでセバスから受けた説明
①城で正式雇用する場合、保安上の理由から誓約を立てさせる
だから 正式雇用された者が 裏切ることもないが、ほかに転職することもできなくなる
②誓約を立てる前に 雇用主と雇い人の間で雇用条件を細かく煮詰める
たいていの場合は 名誉か多額のボーナスを雇用主が約束する
もし 雇用者が支払を怠れば 雇い人は誓約を破棄できる
③財政節約のためにも 臨時ボーナスも契約金も月々の支払いも抑えたい
「そんなにうちの城 お金がないの?」
「ぶっちゃけ 私達3人働かずに一生のんびり暮らせるだけの蓄えはあります
しかし 城主としての国への奉仕や 対面を保つだけの費用は全くありません」
「国への奉仕ってなに?」
「就任時・婚姻時・後継者を定めた時、最低でもこの3回は 首都へ行って報告するとともに認可を受ける必要があります。
貧乏城主の場合 往復の旅費と首都での宿泊代だけでも許されますが
ここから首都へ行って泊まるには そうですね この城の中で過ごす経費の3年分はかかります。
お嬢様が就任なさるときの手土産については 先代様がご用意くださっていたので大丈夫ですが それ以外の分は ご自分でご用意なさる必要があります。
相場的には 我々3人の生活費10年分が毎回かかると思っておられるとよろしいでしょうか」
「それって 領地からの収入ではまかえないの?」
「領地からの収入1年分=私達3人分の生活費です。
というより 年収分に合わせて人件費を切り詰めた結果が現状でございます」
「このことを知っているのはだれとだれ?」
「明確に断言できるのは 私とフローラとお嬢様だけ」
「しかし ケイタ―も察しておりましょう。
他の者に このことを知られてはなりません。侮られることになりますから」
「ウマイヤが知っている可能性は?」
「察していても 口に出して話すようでは 使えません」
「どっちが口に出したらダメなの?」
「どちらからでもです」
「そうなの」
「そうです」
「とりあえず フローラとパンの話をしたいわ」私
「町まで行って 彼女を誘って 二人で安心して話せる場所に行きたいのだけど」私
「お供いたします」
「パン屋さんなら昼から行くよりも 午後から行った方が向うの時間の都合をつけやすいわよね?」
「その可能性はあるかもしれませんが 何ともいいかねます」
「じゃ 今から行こう!」