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貧乏領主になりました  作者: 木苺
    船関係者とその家族達
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フローラとイモ

領主館は、ペンペンの町の北側にある小高い丘の上に建っている。


注意深く歩けば、領主館のある丘を囲むように、二重の空堀が掘られていることがわかる。


しかし 所詮は空堀、草ぼうぼうなので、町の人の感覚で言えば、町から領主館まで上ったり下りたり パッと見ただけではわからない起伏が多いから、意外と歩いて行くのが大変だぁ、急な段差もあるから 馬車も使いにくいという話になる。


ペンペン街に面した南側には表門がある。


この表門の真ん中に正門がある。

 正門は 領主の就任式などの公式行事(多数の人が集まる時)の時だけ 開け放たれる。


 正門の両側には、張り出すように玄関門がある。

  大名屋敷なら さしづめ番屋にあたるのだが、天河家の領主館では、

  簡易なへやつき出入口である。


 正門の東側が領主(専用)門、西側が、セバスとフローラ専用&この二人に用事のある来客&領主への取次を願う者用の出入り口(御用門)である。


領主館の四方を囲む壁の西面には 通用口がある。

 ここから荷駄や使用人達が出入りする。


 本来なら、すでに領主館と取引のある商売人も、この通用門で品の受け渡しをすべきなのであるが、天河家の使用人の数が限られているので、これからも当分も、

商売人は 領主館の手前の西側に荷駄を置いたまま、とりあえず御用門で要件を述べて、それから通用口に回って品の受け渡しをすることになっている。


 尚、領主館とこれまで取引をしたことがないものが、領主館の使用人に売り込みをかけたり、直接通用口に回ることは禁じられている。

 場合によったら これは敵対行動とみなされ切り捨て御免の憂き目にあっても文句は言えない。


壁の北側には 忍び専用の隠し扉があるが、これは 一般人の目には触れない。


この形式は 規模は違えど、天河家ゆかりの領主達の館の門と共通している


それゆえ、イモは迷うことなく、御用門をたたいた。


 「何用じゃ?」


 「花家のイモと申します。フローラ叔母上にご挨拶にまいりました」


しばらく待つと、門屋敷の中に招じ入れられフローラに会うことができた。


「お久しぶりでございます」


互いに10年以上も会っておらず、最後に会った時、イモはまだ小さな子供だったので、互いに 花家の総裁と棟梁としてのサインをかわし、さりげなく印籠を見せあい互いの身分と本人の確認をした。



フローラの後について門屋敷を出て、館に向かい、とある部屋に招き入れられ、

椅子に座ると フローラが茶を入れてくれた。


「食事は?」フローラ


「バッキ―のパン屋さんという店で ダブルバーガーとコーヒーで、昼食を済ませました。」イモ


「口に合ったかしら?」


「パテやバンズのレシピを手に入れて、故郷でも作りたいと思う程度には気に入りました」


「それは良かった。

 バッキ―のパンは、ここでも使っているから」


「そうなんですか。

 毎日の仕入れが大変そうですね」


「今現在は、バッキ―はこの館の住み込み料理人待遇なのよ。

 バッキ―は一度パン屋を閉店して うちの住み込み料理人になったの。

 その後、御領主様が出資して、パン屋を再開したのだけど、

 バッキ―が独立してパン屋を営業する気になるまでは、

 あの子は うちの住み込み料理人よ」


「そうなんですか」

心中の驚きは表に出さすに、イモは相槌をうった。


イモが 茶わんを置くと、フローラが口火を切った。

「それで?」


「なにがどうなっているのか 確かめに来ました」

 叔母さん相手に腹芸が通じるとも思えないので、イモは 次々疑問点を上げていき

フローラがそれに答えた。


「それって どこまでが 総裁の考えで、

 どっからが領主様の考えなんですか?。


 ずいぶん大胆な改革案のように感じるのですが

 どこまで通すおつもりなんです?」イモ


「先の御領主様がなくなってから、当代御領主様が就任されるまでの10余年

 じっくりと考えて来た計画ですから、

 その都度 御領主様の決済を取って 次々と進めていきますよ」フローラ


「反対されたときは?」


「御領主様の考えを ご一緒にじっくりと検討して、順々と進めることになりますね」


「そこまで計画を練ってらしたのに、なぜ 先代の御領主様がお亡くなりになった時に 叔母上が天河家領主にならなかったのですか?

 叔母上を押す声も上がっていたと聞きますが」イモ


「幼少とはいえ 直系御息女がいらっしゃるのに、私が領主になるわけないじゃないですか。

 継承に関する決まりごとを遵守してこそ、秩序が保たれるのです。

 継承順位変更の話し合いは 平和な時に そして継承問題がない時を選んで行わないと不和と紛争が生じるだけです」フローラ


「でも 人ってのは 物事がうまく回っているときは、何かを変えようとしないでしょう?

 もしいたとしたら、それは私利私欲を隠した(よこしま)な計画がほとんどじゃないですか」イモ


「ならば 無理に何かを変える必要もないというのが 全体の総意ということなのでしょう」


「それでは なんにも変化が起きないじゃないですかぁ」イモ


「おや? さきほど 変化の大きさにおびえた発言をしていた人とは思えないセリフですね」フローラ


「・・・」


(俺が本当に言いたかったのは、叔母さんが 御領主様をいいように引きずり回して

 いざという時には 領主という肩書を持つ人に失敗の責任だけを押し付ける気でいるのではないか? ということだったんだけど・・

 さすがにこれを言うと いろいろな意味で危ない)イモ


「ところで 貴方は 天河家ご当主に 忠誠の誓いを立てる覚悟ができているのですか?」フローラ


「叔母上こそ どうなのですか?」


「側近として 当然済ませましたよ」フローラ


「まるで 娘のような年齢の主君にですか?!」


「だからこそです。」フローラ


(信じられん。 

 忠誠の誓いというのは 命がけの誓約ではなかったのか?

 それを 子供相手にするなんて。

 まさか あれは ただの形式にすぎないのか?

 おれなら まだ海の者とも山の者ともつかぬ子供相手に 命を懸けた誓いなどできぬぞ)イモ


「お嬢様より全幅の信頼を頂いているのですから

 その信頼にこたえるためにも

 臣下としては 己の命と名誉、己の全てをかけて忠誠を誓うのは あたりまえのことでしょう?

 それができぬ者を お嬢様のおそばに近づけるわけにはいきません」

フローラはきっぱりと言い切った。


唖然(あぜん)としてイモは答えた。

「そういうものなのですか?」


「そうは思わぬのですか?」フローラ


「そこまで 考えが至りませんでした。

 申し訳ありません」イモ

※ 土日休日は 朝8時 

  月~金は  朝7時の1回投稿です

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