天海号、200人の乗客を迎える
大型荷物を預け入れたら、今度は 手荷物をもって乗船です!
王都からの天海号クルーズでは、乗客は 各地の領主や富裕層でした。
それゆえ 客室には それなりの備品をそろえていました。
しかし 今回の乗客は 無料乗船の庶民たち。
幸いにも 船上で過ごす時間は約2時間。
それもこれも 南の入り江を流れる沿岸流が、東西どちらの岸辺でも
湾の外に向かっているおかげ。
というわけで、今回は乗客を、これまで各地で行った湾内巡りのと同様に
客用船室には入れないことにしました。
とはいえ、200人近い乗客を、甲板に集めるのは無理。
そこで、2階の船尾側甲板・中央甲板右舷・中央甲板左舷・船首側甲板、1階の客用居住区にある食堂と休憩室に振り分けることにしました。
(だからこそ 手荷物以外の荷物はすべて 預けてもらったわけです!)
◇
入室を食堂と休憩室に限定したとはいえ、もともと富裕層向けの内装・備品をそろえた部屋であり、そこにつながる廊下であることには変わりはないので、
船員達は 徹夜で該当部分の備品を撤去して船倉に移しました。
汚れ・破損・紛失 防止のために。
だって なんかあっても 弁償してもらうことが経済的に無理な人たち(請求するのも偲びない人達)が乗客になっているのだもの。
それでも 床材や壁紙のグレードは高かったので
乗客の皆さんは 大変気を使って 船内を利用してくださいました。
竹林県の人たちは、質素倹約を旨としてつつましい生活をしていますが
日ごろから、展覧会などの催しを通して、質の高い品や装飾を鑑賞することには慣れているので、グレードの高い室内での過ごし方・マナーも身についてらっしゃるのが すごいと思う。
これは 歴代領主達による 文化的催し、庶民の教養を高めるための催しの成果だと言えましょう。
質の高い公共財に、子供のころから日常的に接することにより、審美眼・鑑賞眼が鍛えられると同時に、入場の際のマナーも徹底してしつけられることにより、わきまえがその身に叩き込まれている、
これぞ公教育効果というものかもしれません。
それでも 乗船後は、キョーシロー・セバス・タンタン・シノが警備員とともに各グループに付き添って気を配るとともに、
船員達が要所要所に立って、人々が施錠区画に入り込まないように見張りましたが。
船尾側甲板には、子連れグループを、固定したテーブルとイスのある食堂には体力に自信のない方を割り当てました。
この点については、事前協議の時にちょっともめました。
「子供が 海に落ちたらどうするんだ!」コチ
「子供が内装を汚すことの方が被害甚大です!」セバス
「人でなしの発言だ」キョーシロー
「ボランティアであっても 採算を考える必要があります!」タンタン&フローラ
「船室の窓は 高い位置にあるから、子供が窓の外を見たがって窓枠によじ登ろうとするのは必定。
その時についた手垢や靴跡を しっかり落とせる自信はありますか?壁面を傷めずに。
それに 気を使った保護者の皆さんが 無理して子供を抱えあげたときに
船の揺れで転倒したら責任をとれますか?」
私の指摘に、コチとキョーシローは顔を見合わせ、シノは苦笑い。
「陸育ちの子が お客として船室に入ると、そういうことになるのか。
だったら、興奮した子供が 甲板を走り回って転んだり、海に落ちることをどうやって防ぐんだ?」コチ
うなづくキョーシロー
「その点に関しては フローラ、協力してもらえるかしら?」私
「アテンダントとして、子供達への対応も お嬢様にお任せします。
私はあくまでも予備要員としてお考え下さいませ」フローラ
「フローラが 立っているだけで 子供達はおとなしくなりますって」
セバスが軽口をたたいて、フローラににらまれた。
「昔からフローラが居るだけでその場が引き締まり、どんなやんちゃくれでも、フローラの前ではおとなしいのは事実です。
それに お嬢様が子供や親子連れの扱いに長けていらっしゃるのは、
領都で始めた「焼き立てパンのサロン」の会場を、たびたび一人で切り回していらっしゃことからも明らかです。」
セバスが、コチとキョーシローに向けて説明し、タンタンもウンウンとうなづいた。
「そういうことなら 責任はそちら持ちということで同意しよう」コチ
「子連れを甲板に集めるための準備には協力してくださいね」私
◇
というわけで、当日、子連れグループは 甲板の船尾部分に集められた。
そこからは船の後方180度に視界が広がっているので、眺めは良い。
家族単位で仲良く固まって座り、周囲には低い柵を並べて囲んだ。
子供達には 三つのお約束として、
①降りる時まで立たないこと
降りる時までは 柵の外に出ないこと
柵は 触れるとすぐに倒れるから 柵にはさわらないこと
②気分が悪くなったら すぐに手を挙げて、たん壺を受け取ること
吐くときは 必ず 壺の中に吐きましょう
③船員や係員の指示には必ず従うこと。
船員のお仕事は邪魔しないこと
を乗船前と、甲板に集合してからの2回、徹底して約束させた。
その他の大人グループに対しても それぞれの担当者から同じようなことが告げられている。
(①の「柵の外に出るな」のかわりに、係員の誘導から外れるな!であるが)
さらに、足腰が達者で健康に自信のある者達が、小グループに分かれて、甲板各部から海をながめたが、そこに参加する者達には、事前に引率担当船員から、
「策具に触れたり、船員の指示に従わねば即刻海に放り込む!
海に落ちても救助しない!」
という警告が出された。
それでも 海への憧れが強い者や 船員志望の者たちは、
大型船の甲板に立つ絶好の機会と喜んで参加した。
まあ 竹林省の人間なら、たいてい 子供のころから船や航海王への憧れ・冒険への憧れと海への警戒心を併せ持って育っているので、船に乗れば
船長や上位者には絶対服従の掟は身につけてはいるのだけど。
それでも なんのトラブルもなく、無事にお客たちが下船し終わった時には ほっとした。
お客さんがいる間は緊張して 酔いを感じる余裕もなかったけれど
お客さんのいない帰路では しっかりと酔ってしまった。><
一つには お昼ごはんを食べ損ねて 空腹だったのもあるけれど・・
(補足)
策具:船で使う 帆綱(ほづな:帆を操作する綱類の総称)などのように、綱で作った道具
=綱具(つなぐ:綱と結び合わされた滑車も含めた綱でつくた船具の総称)
(コトバンクより)




