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貧乏領主になりました  作者: 木苺
第1章 天海号をめぐって:竹林省の人々
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天海号、200人の乗客を迎える

大型荷物を預け入れたら、今度は 手荷物をもって乗船です!


王都からの天海号クルーズでは、乗客は 各地の領主や富裕層でした。


それゆえ 客室には それなりの備品をそろえていました。


しかし 今回の乗客は 無料乗船の庶民たち。



幸いにも 船上で過ごす時間は約2時間。

 それもこれも 南の入り江を流れる沿岸流が、東西どちらの岸辺でも

 湾の外に向かっているおかげ。


というわけで、今回は乗客を、これまで各地で行った湾内巡りのと同様に

客用船室には入れないことにしました。


とはいえ、200人近い乗客を、甲板に集めるのは無理。


そこで、2階の船尾側甲板・中央甲板右舷・中央甲板左舷・船首側甲板、1階の客用居住区にある食堂と休憩室に振り分けることにしました。

(だからこそ 手荷物以外の荷物はすべて 預けてもらったわけです!)


入室を食堂と休憩室に限定したとはいえ、もともと富裕層向けの内装・備品をそろえた部屋であり、そこにつながる廊下であることには変わりはないので、

船員達は 徹夜で該当部分の備品を撤去して船倉に移しました。

 汚れ・破損・紛失 防止のために。


 だって なんかあっても 弁償してもらうことが経済的に無理な人たち(請求するのも偲びない人達)が乗客になっているのだもの。


それでも 床材や壁紙のグレードは高かったので

乗客の皆さんは 大変気を使って 船内を利用してくださいました。


竹林県の人たちは、質素倹約を旨としてつつましい生活をしていますが

日ごろから、展覧会などの催しを通して、質の高い品や装飾を鑑賞することには慣れているので、グレードの高い室内での過ごし方・マナーも身についてらっしゃるのが すごいと思う。


 これは 歴代領主達による 文化的催し、庶民の教養を高めるための催しの成果だと言えましょう。


 質の高い公共財に、子供のころから日常的に接することにより、審美眼・鑑賞眼が鍛えられると同時に、入場の際のマナーも徹底してしつけられることにより、わきまえがその身に叩き込まれている、

これぞ公教育効果というものかもしれません。


それでも 乗船後は、キョーシロー・セバス・タンタン・シノが警備員とともに各グループに付き添って気を配るとともに、

船員達が要所要所に立って、人々が施錠区画に入り込まないように見張りましたが。


船尾側甲板には、子連れグループを、固定したテーブルとイスのある食堂には体力に自信のない方を割り当てました。


この点については、事前協議の時にちょっともめました。


「子供が 海に落ちたらどうするんだ!」コチ


「子供が内装を汚すことの方が被害甚大です!」セバス


「人でなしの発言だ」キョーシロー


「ボランティアであっても 採算を考える必要があります!」タンタン&フローラ


「船室の窓は 高い位置にあるから、子供が窓の外を見たがって窓枠によじ登ろうとするのは必定ひつじょう

 その時についた手垢や靴跡を しっかり落とせる自信はありますか?壁面を傷めずに。


 それに 気を使った保護者の皆さんが 無理して子供を抱えあげたときに

船の揺れで転倒したら責任をとれますか?」


私の指摘に、コチとキョーシローは顔を見合わせ、シノは苦笑い。


おか育ちの子が お客として船室に入ると、そういうことになるのか。

 だったら、興奮した子供が 甲板を走り回って転んだり、海に落ちることをどうやって防ぐんだ?」コチ

 うなづくキョーシロー


「その点に関しては フローラ、協力してもらえるかしら?」私


「アテンダントとして、子供達への対応も お嬢様におまかせします。

 私はあくまでも予備要員としてお考え下さいませ」フローラ


「フローラが 立っているだけで 子供達はおとなしくなりますって」

セバスが軽口をたたいて、フローラににらまれた。


「昔からフローラが居るだけでその場が引き締まり、どんなやんちゃくれでも、フローラの前ではおとなしいのは事実です。


 それに お嬢様が子供や親子連れの扱いに()けていらっしゃるのは、

領都で始めた「焼き立てパンのサロン」の会場を、たびたび一人で切り回していらっしゃことからも明らかです。」

セバスが、コチとキョーシローに向けて説明し、タンタンもウンウンとうなづいた。


「そういうことなら 責任はそちら持ちということで同意しよう」コチ


「子連れを甲板に集めるための準備には協力してくださいね」私


というわけで、当日、子連れグループは 甲板の船尾部分に集められた。


そこからは船の後方180度に視界が広がっているので、眺めは良い。


家族単位で仲良く固まって座り、周囲には低い柵を並べて囲んだ。


子供達には 三つのお約束として、

 ①降りる時まで立たないこと

  降りる時までは 柵の外に出ないこと

  柵は 触れるとすぐに倒れるから 柵にはさわらないこと


 ②気分が悪くなったら すぐに手を挙げて、たん壺を受け取ること

   吐くときは 必ず 壺の中に吐きましょう


 ③船員や係員の指示には必ず従うこと。

   船員のお仕事は邪魔しないこと


を乗船前と、甲板に集合してからの2回、徹底して約束させた。


その他の大人グループに対しても それぞれの担当者から同じようなことが告げられている。

 (①の「柵の外に出るな」のかわりに、係員の誘導から外れるな!であるが)


さらに、足腰が達者で健康に自信のある者達が、小グループに分かれて、甲板各部から海をながめたが、そこに参加する者達には、事前に引率担当船員から、

策具(さくぐ)に触れたり、船員の指示に従わねば即刻海に放り込む!

 海に落ちても救助しない!」

という警告が出された。


 それでも 海への憧れが強い者や 船員志望の者たちは、

 大型船の甲板に立つ絶好の機会と喜んで参加した。



まあ 竹林省の人間なら、たいてい 子供のころから船や航海王への憧れ・冒険への憧れと海への警戒心を併せ持って育っているので、船に乗れば

船長や上位者には絶対服従の掟は身につけてはいるのだけど。



それでも なんのトラブルもなく、無事にお客たちが下船し終わった時には ほっとした。


お客さんがいる間は緊張して 酔いを感じる余裕もなかったけれど

お客さんのいない帰路では しっかりと酔ってしまった。><

 一つには お昼ごはんを食べ損ねて 空腹だったのもあるけれど・・


 

(補足)

策具:船で使う 帆綱(ほづな:帆を操作する綱類の総称)などのように、綱で作った道具

   =綱具(つなぐ:綱と結び合わされた滑車も含めた綱でつくた船具の総称)

(コトバンクより)

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