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貧乏領主になりました  作者: 木苺
第1章 天海号をめぐって:竹林省の人々
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天海号、輸送船となる

農家にとって、春は種まきの季節なので非常に忙しい。


それこそお日様と気温をにらみながら 1日の猶予もなく作業を進めていかなくてはならない。


それでも、天海号の帰港を祝いに、近隣の村や町から領都ペンペンへ

多くの人々が集まっていた。


私の帰還を歓声を上げて出迎えてくれた後は、農民たちは郷里に急ぎ戻らねばならない。

 ペンペンに来るときもかなりの騒ぎだったらしいが

 一斉帰宅では さらなる混乱が生じかけ・・・


そこで入港した翌々日に、南の入り江の東海岸沿いの方々を、ペンペンから東町まで 天海号で送ることにした。

 これはもう 領主からの領民への特別サービスとして無料で。


いやもう みんな喜んだのなんの。

 乗り合い馬車で来た人たちは、せっかく領都まで来たのだし、

 馬車と違って船ならいつも以上にたくさん荷物を運べるからと

 たっぷりとお土産を買い込んだり、

 お店の人に運送料を払って後日運んでもらうつもりだった荷物を

 当日お持ち帰りにして船に持ち込んだから、

 交通整理ならぬ 乗船案内が大変でした。


受付を①乗船資格の確認所 ②大型荷物預け場所 ③手荷物と乗船者の最終確認 ④船室別にグループ分けして乗船待ち

の4ポイントに分けました。


これは夢の世界の、空港のチェックカウンターや、クルーズ船の乗船手続きを参考にして差配しました。


(結局 船内案内人アテンダントとして、私も乗船勤務することになりました)


なにしろ、コチやキョーシロー達は 船を動かすプロではあっても

大型船に客を迎え入れたのは 実はジョーダンを出航した時が初めてで

あの時は 乗客数も限られていたので タンタンとセバスの差配でなんとなかなったのですが、

今回は その10倍以上もの庶民がど~っと乗ってくるのですから。


◇ ◇

ヒノモト国では、旅に出るときには、必ず寝具を持参することになっています。


宿のベッドは通常、木の台となっており、そこに持参の寝具を敷いて寝るのです。


宿の店主は、客がのみやしらみなどの寄生虫を持ち込むのを防ぐために

受付で、客の頭や寝具のチェックをして、不潔な人間の宿泊はお断りすることになっています。


宿泊を断られた客は、町の「衛生所」に行って、しっかり料金を支払ったうえで 入浴と殺虫剤の使用を義務付けられ1週間の検疫足止めを食らうので、領民たちは日ごろから衛生対策をしっかりする習慣が根付いているだけでなく、旅に出る前は 特に念入りに体も、寝具や衣類も、清潔にして出発します。


それゆえ、①乗船資格の確認所と③天海号の手回り品と乗船者の最終確認では、危険物の持ち込みだけでなく衛生状態チェックも行いました。


 乗船資格の確認というのは、今回の輸送対象者以外の者がまぎれこんでいないかのチェックのこと。

 なにしろ 今回の移送は、あくまでも領民の帰宅援助活動なのですから

 該当区域外の者たちは 対象外です!


この重要な役割の担当は セバスとフローラ


 長年、領主館を守ってきたこの二人が、天海号の門番よろしく仕事をしているのを見て、ペンペンの町の人たちは、

 「やっぱり天海号は 御領主様の海上館かいじょうやかただぁ

  お館様のお宅に訪問させて頂けるとはうらやましい」と

 乗船手続き中の近隣の人たちを見送りながら ささやきあいましたとさ。


そして、今回自前の馬車で来た為に 天海号に乗船できなかった対象地区の人々が悔しがったことと言ったら。


 しかし そこは ちゃっかり者のセバスが、現在 湾内巡りの有料クルーズの計画も進行中であると、あらかじめささやいて回っていたので、自前の馬車で日常的に旅ができるほどの小金持ち~富裕層は・・時期を待つことにしたのでした。


乗船資格の確認が終われば、次は 大型荷物の預け入れです。


しかし

「なぜ 荷物を全部、自分で持ってはいれないの?

 預けなければいけないの?」


「預けた物が なくならないかしら?」


と疑問や不安にさいなまれる人が続発。


そこで 私は部下に命じて、

乗船予定者をを40~50人づつまとめて一区画に入れ、

そこで、大型荷物預けの必要性を 船内の構造説明と合わせて(おこな)いました。


その際 いろいろ皆さん質問してくるものですから、

ほとんど、乗船心得&船内案内事前説明会みたいになってしまいました。


(うん、この経験を、今後の 天海号のクルーズ営業・接客案内にも役立てよう)


 急遽(きゅうもう)、大量の一般人を乗船させ移送することになったため、

 船長以下船員達は船の運航準備にかかりっきり。


 それゆえ、乗船手続きから何から対人業務は、

 すべて私とその配下の者で行わなければなりませんでした。


私の下につく応援の人手は、孤児院の子供達とケイタ―家から借りた人達。

 (もちろん きちんと報酬はお支払しています)


私としては 初めてのチームリーダー体験。

 しかも ほぼ初対面の人達を指揮するので緊張しました。


それでも、子供達やケイタ―家から派遣された人たちは、

日ごろから町の催しなどの臨時スタッフとして協力して働いてきた経験があるので、私の指示に的確に反応し、連携よく動いてくれました。


 合間合間あいまあいまに眼に入る かの者達の動きを通して、

 群衆整理における勘所かんどころ・応対のコツのようなものを

 知ることもできました。


 (さすが、何年も フローラの指揮下で、イベントスタッフとして鍛えられてきた子供達&ケイタ―家のスタッフだけある!


  これは 後で聞いた話ですが、孤児院の子ども達にとってイベントのお手伝いは、大事な収入源であるだけでなく、そこでの働きを評価されてあちこちにスカウトされる機会でもあったそうです。


  街の人々が 孤児院やそこの子供達に好意的なのは、

  折に触れ、そこの子供達の働きぶりを目にすることにより

  施設で受ける教育の質の高さを知り、

  屈託なく活動する子供達の姿から、家庭環境に恵まれずとも良き施設に入所して育てば

  子供はすくすく育つと実感できたからではないでしょうか?

   20年近くもかけて、そのように事を進めて来たフローラってすごい!)

  


乗船前の臨時説明会は、港の空き地で行なった為、

対象者だけでなく、順番待ちのグループの人達にも、私や質問者の声は届いていました。


さらに 空の木箱の上に立って話す私の姿は、見送りや見物に来ていた群衆の目にも止まったようです。


「御領主様が自ら、乗船予定者に事前説明してくださっている」


「それも、一人一人の不安や疑問にこたえられるように 質疑応答の時間まで用意してくださっている」


「春香様が御領主でよかった♡」


と街の人々も好意的に受け止めて下さり

順番待ちの方たちも 私語を慎んで傾聴してくださったので

グループ別説明会は あとになるほど スムーズに進みました。

 (街の人達の領主に注ぐ目が いつも暖かくてほんとにありがたい!)


 それこそ、順番を待っている間に、先のグループへの説明が聞こえてきて納得がいったからと、次のグループは質疑応答なしでOKだったり。


そして 私の説明に納得いった方々は、次々と、シノとキョ―タローの所に行って、大型荷物にネームタグをつけて預けたり、預かり札を受け取ったりです。


(仕入先に、木札の在庫があって よかったぁ。)

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