入り江にて(測鉛の写真あり)
伝書鳥の足につけた連絡文を読んだ、母船のめんめんは、
早朝、打ち合わせ通りに、霧笛とメインマストに掲げた信号旗で、
私たちが待つ入江側に回ることを知らせて来た。
タンタンは時計を片手に霧笛が鳴るのを待ちかまえ
キョーシローは、樽の木のてっぺんまで上って、双眼鏡を使って船と旗を確認した。
そして実験的に手を振って モールス信号を送ったが、向こうから返信がなかったのは 見えなかったからだろう。
海上からは 樽の木林にしか見えない島なので、
その木々の中のどこにキョーシローがいるのかわからなかったのだろう。
それでも 確認のために、キョーシローが信号を送ることは知らせてあったので
それなりに 探してくれていたはず。
天海号は ゆっくりと慎重に島を回り、昼には、入り江の外側まで来た。
時間がかかったのは、風向きの関係もあるが、念のために測量をしながら進んで来たことも理由の一つだ。
母船(天海号)は入り江の外に停泊して、上陸艇を下ろして、水深を測りながら、湾の中をすすんできた。
初めての入り江に入る時には、測鉛(上図参照)を使って、水深と海底の状態を確かめながら進む。
測鉛というは、目盛りのついた長いロープの先に重りがついている。
この鉛製の重りのくぼみの部分に獣脂を詰めて、海底の土質を調べるのだ。
帆船は追い風の時には、帆をできるだけたくさん張って、船速を上げる。
というのも 風がない時は、海上で 風を待つ=前にすすめないので待機せざるを得ないからだ。
だから 追い風の時には、少しの風も無駄にせず 風をしっかりと捕まえて前に進まなければいけない。
一方 浅瀬に突っ込むと座礁する、
干潮の時に、ただ 岩と岩の間に挟まる程度なら、潮が満ちてくるのを待って浮き上がり、必死に漕いで 岩場を離れることができるが、勢いよくぶつかって穴が開いたら、航行不能。
運が悪ければ 沈んで一巻の終わり。
それゆえ 初めての島に上陸するときには、潮の満ち引きの様子も見ながら、
しっかりと浅瀬の位置を確かめ、水深を確かめながら ゆっくりと入港する必要がある。
さらに、海底が泥なのか 砂なのか 砂利なのかも確かめ
隠れた岩場がないか、どの程度まで岸に寄せてよいかも考えながら、前進する。
それゆえ 未知の入り江に入る時には、母船を安全な外海に停泊させて、
上陸艇(帆を張ることもできるボート)に先行調査させることもあれば、
母船のまま突っ込んで座礁した探検家もいた。
帆船の船首には、上図のように、順風満帆の時の帆を張るため、ロープをくくりつける棒が突き出している。
これを 船嘴という。
一方 ヨット(下図)のように、帆で風を受け止め動く船でも船嘴のないタイプもある。
(しかも メインセールのことをメンスルと読んだり、用語の使い方も様々><;)
それゆえ、水深測鉛を使う時も、船首に座り込んだり、船嘴にまたがったり、いろいろだ。
ちなみに、ジュール・ベルヌのころの捕鯨では、船嘴にまたがって、銛をクジラに打ち込んだらしい。「海底二万里」で、ネッド君が銛を振ります描写から察すると。
要は、測鉛を投げ込む勢いをつけるために ロープを振り回す余地があって、
船底よりも前方の水深と海底状態を素早く確かめられる場所に陣取る必要があるということ。
測鉛は、海の深さにより2種類の測鉛を使い分けるらしい。
入港時に使う水深測鉛は、軽測鉛とも呼ばれ、浅い海を計測するときの道具である。
測鉛底部から計って、5m=白布、10m=革片、(中略)55m=藍黒旗片、60m=3結節ヤーンの符標が
ロープにつけてある。(※2))
水深測鉛を使って 未知の入り江に入港するときの描写だが、
私には ランサム以上の描写ができないので、
ここでは 彼の作品、ピーターダックの物語(※1)からの描写を借りながら、話を勧めたい。
船嘴に陣どったコチは、『最初はゆっくり、綱を長く持って、測鉛を振り回していたが、
やがてブンブン勢いよく振り回し
とつぜん前方に振り飛ばした。
測鉛は船のかなり先の水に落ちた。
「目もり十。」水深測鉛の綱を引っ張ってピンと張らせると、
綱に括り付けた、穴があいている小さな革ぎれを見て』言った。
彼は、缶の中の獣脂をすくいとり、『パイプにタバコを詰めるときのような親指の使い方をして、
重りの下部のくぼみに脂を押し込んだ。』
帆をはったボートは、『すべるように進み続けた。
また、測鉛が振り回されて前方にとび、水音をたてて落ちた。
「深度8、砂地」 重りの下のあぶらについてきたものを指先でつまんでみて』言った。
再び 測鉛が投げ込まれる。
『測鉛索をぴんと張って、測鉛が底に達したかどうかを指先の感じでためし』た。
『「目盛り5・・・砂地」』
ピーターダックの物語と同じように、コチは水深と海底の状態を確かめながら、ボートを前進させ、
停泊させた。
波打ち際の樽の木からは十分に距離をとって。
「あちらの上陸地点では、干満差がけっこうあった。
あちらなみに こちらの湾でも干満差があるのなら、
満潮時に樽の木の幹に衝突しないようにするには、停泊位置を慎重に決めねばいかん。」コチ
「頻繁に ここを港として使うならば、樽の木を利用して桟橋を作ってはどうでしょうか?」タンタン
「要は それだけの利用価値があるかどうかだな」コチ
コチとキョーシローは船員達と協力しながら、
湾の中まで母船が入ってこれるように、さらに、詳しく水深を図ったり
湾の中の海流を調べたり、
最後には 樽の木に目印をつけて道標とし、母船を湾の中ほどまで進め、そこに停泊させた。
海岸線は樽の木に覆われて、砂浜がないのだ。
私とシノは、コチ達の指示に従って動いたり、
天海号内で、ピピ・ララといっしょに 船員も含めた全員分の食事の支度したり、
船外に出て、樽の木からの水集めをした。
できるだけ、葉が青々とした樽の木の樹液を集めたが、
中には少し甘いものもあったので、
それにはすぐに栓をして、栓の所に「甘い」と記しをつけた。
夕方、コチとタンタンは母船にもどり、私とシノ・キョーシロー・セバスの4人は
陸に残った。
湾の中の母船と陸との光を使った連絡は 予定通りうまくいった。
カンテラ(手提げランプ)の明かりの前についたてを置いて、光を遮ったり、
ついたてを上げて光を見せたりしながら、遠くから光が点滅しているように見せるのである。
この光の点滅の間隔を ツー(長い)トン(短い)の2種類に分けて、モールス信号で伝達した。
夜間特別実習として、道標に明かりをともして導灯とし、
コチは 船員達に、導灯を見ながら ボートを入港させる練習を課した。
外海から大規模港に大型船が入港するときには、まっすぐに安全な航路をたどることができるように
高低のある地形を利用して導灯とする。
しかしながら、出入りの少ない小さな入り江に帆船が入港する程度ならば、
木の幹に目立つ印を上下につけて、道標とし、夜間は そこにランプをぶら下げて導灯とすることができる。
陸の道にはカーブがあっても、船の道は 基本的に直進しかない。
陸の車は蛇行運転することもあるのかもしれないが、船は 舵輪を必死に回して向きを変えても、
基本的にまっすぐ まっすぐすすみなからが ちょっとづつ角度を変えていくので精一杯。
だから 最初から 起点ー終点の間に障害物がないことを確認してから船を動かさなければいけない。
それを怠ると ゴンして沈してブクブク。
だからこそ 船の前には飛び出し厳禁。
(米軍潜水艦のように 漁船や10代の若者が操船している海洋実習船を下から突き上げるようにいきなり浮上して
当て逃げで日本人船員を見殺しにするのは言語道断の所業なのである!)と夢の中の私は叫んでいた。(当て逃げ常習犯の米軍船めが!!平和な海で何千人の日本人を殺したことか!)
私たち4人は 今夜もハンモックで寝ていた。
夢の中で激怒した私は ハンモックから転がり落ちて目が覚めた>< イッテ~~~(涙)
いったい 私は何の夢を見ていたのだろうか??
※ 土日休日は 朝8時
月~金は 朝7時の1回投稿です
※1引用文献
アーサー・ランサム全集3「ヤマネコ号の冒険」岩田欣三訳 岩波書店1968年6月18日第一刷 P275~P276
※2 測鉛の写真を引用 説明を参照
日本船舶海洋工学会 デジタル造船資料館
https://zousen-shiryoukan.jasnaoe.or.jp/item/genre06/category06-02/item-007455-0001/
船嘴の状態が分かりやすい帆船写真(ノルウェー船籍のChristian Radich号)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/ee/Tall_ship_Christian_Radich_under_sail.jpg
セーリングヨットの構造 (イラスト引用元)
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yumaka/think6.html
導灯について 引用元
https://www.kaiho.mlit.go.jp/11kanku/03kakuka/8kotsu_kikaku/mitisiru/mititowa/kouha.htm
「海の道しるべとは?」第十一管区海上保安部 JCG ←沖縄の海の話題が豊富 写真も美しい
(補足)
ランサムの作品には 時々 測鉛を使った描写が出てきます。
夜間航海であったり、ヤマネコ号のように初めて上陸する島への入港時であったり。
いずれも 手に汗握る描写でした。
しかし いかんせん測鉛そのものを見たことのない私には、肝心かなめの所がイメージできませんでした。
今回 ダメ元で測鉛の画像を求めてネット検索して、ヒットしたのが 引用画像です。
そこに書かれていた符標の説明が、ランサムの記述と一致していました!
というわけで 該当部分を 本作品でも引用させていただくことにしました。
(どうあがいても、ランサムの記述に似てしまう私の文章よりは
すんなりと 『引用しました』と鍵かっこでくくって継ぎはぎする方が正直かと思いましたので
すみません)
かつて一般的だった測鉛を使った航行描写をどうしても 物語の中に残したかったのです。 m(__)m
しかも 海洋冒険ものが好きで乱読した私ですが、測鉛と導灯の描写は ランサムの作品以外で
見た記憶がなかったので、余計に!!。
ランサムは機関がメインになりつつある時代に生きて、
かつて大英帝国を栄えた帆船の航法を少しでも当時の子供達に伝えたくて
12冊の物語を書き上げたのかもしれないと、
今回彼の作品を思いだす一方で、現代の港湾の入港方法をネットで検索しながら
私にとっても最も印象的だった測鉛と道標を使うの生々しい描写の数々を思い出して。
ちなみに「ピーターダックの物語」というのは、ランサムの作品の主人公たち自身が、「ヤマネコ号の冒険」を そのように呼んでいるからです。
デジタル資料館のサイトの画像の中には、測鉛のロープにつけられた符標の図もあります。
字を読むのではなく符標の形や印を読むように作られているのがうかがえます。
(引用写真のほうは ロープ部分に符標がついてません、残念ながら)
興味のある方は 是非 資料館のサイトをご覧ください。
造船資料保存委員会の皆様、岩波書店及び岩田氏に心からの感謝をささげます。




