海運会社「天海」
正月3日の深夜 私達は帰郷の途に就いた。
何故深夜 出立かといえば・・帰りは船便だったので、引き潮に乗って出港するためであった。
「経費節減はどこに行った?」と思わず突っ込んでしまった私。
「めちゃくちゃ豪華じゃん この部屋」
珍しくセバスがにっこりと笑った。
「領都 ペンペン迄の船旅を ごゆるりとお楽しみくださいませ。
あわせて 私の外交的手腕をお認め下さいね」
?? 不規則睡眠で 頭がまともに働いてないのか 疑問が言葉にならない。
シノが笑って
「顔がこわばってますよ。
いつもなら お顔がクェスチョンマークを浮かべる所なのに」と言ったので
コクコクとうなづいて 同意した。
セバス曰く
「お嬢様がめでたく航海王と認められたおかげで、王都から領都ペンペンまで、船旅1本で移動できるようになりました。
これまで 東海岸一帯は 小領主の領地が連なっており、寄港するたびに 毎回異なる領主に入港税が課せられていました。
これでは船主の採算がとれません。
貧乏領主は 高い入港税をとるくせに、運送料や運賃は値切り倒しますから。
しかし竹林省が再統一され、大陸の東海岸の 南半分の港が我が領土に含まれることになりました。
東海岸にある今の竹林省(旧梅園県)の港のうち 一番北にあるのがハテンです。
フローラが、一族保有の大型船「天海」をこれまでひっそりと保存していたことは すでにお話ししましたね。
お嬢様が竹林省の再統合を成し遂げられたのち、彼女は 大型船を運航する能力のある者達を呼び集め、その者たちの一人が保有する領地から、タンタンと船員を乗せて、天海号を出航させたのです。
天海号は、その港から 王都ジョーダンまで無寄港で運航しました。
しかし その船の姿は はっきりと 沿岸の領地に住む者たちの目に留まりました。
そしてお嬢様は 新年の儀で正式に航海王であると、ヒノモト国の全領主とバンザイ国王から認められました。
これで 竹林省領主の配下にある船舶は、ヒノモト国のすべての港を、手数料や税を納めることなく利用できるようになりました。
ですから 王宮での祝宴の間に、私は海運会社「天海」を立ち上げ、その初航海で運ぶ人や荷物の契約を取り付けて回ったのです」
「さらに、各地の領主達が、天河家の王都屋敷に年賀に訪れ、そのさいの手土産として、俗に「領主手形」と呼ばれる紹介状を持ってきました。
「領主手形」があれば、その領地内での買い物が、領外の人間に課せられる物品税なしの、現地価格で購入できます。
その結果、
『天河家に属する船であれば、入港料が免除になるだけでなく、水・食料・燃料の補給の際も手数料無しの現地価格で購入できる! これなら 海運業も採算がとれるかもしれない!』
『陸路よりも 安全に大量輸送できるかもしれない』
と考えた 各地の商人達が 我々もと 天河家に押し寄せてきたわけです。
もちろん 自分達に手配可能な紹介状持参で。
もしくは 出資をするから 海運会社「天海」の事業に一口載らせてほしいと。」
セバスの説明はさらに続いた。
「こういう話は 王都でやると、いたずらに駆け引きが長引いたり
横やりが入ったり、誹謗中傷の種になりやすいので、
今回は 主要な港に寄港しながら 商談をまとめていくことにしました。
それに お嬢様が王都の屋敷に長くとどまっていると、それだけ誘拐の危険が高まりますし
有象無象が押しかけてきて、お嬢様に合わせろ!とか縁談を!とか言ったことになりかねません。
その点 船なら いろいろな意味でお守りしやすいですから」セバス
「ようは 多くの話を持ち掛けられるこちらが、即断即決を迫られるのなら
港をもつ 領主達にも 即断即決させようってことだよ。
それに 領主の話だけでなく 実際の港やその周辺の様子を見てから 話を勧めたいしね」シノ
「それに 海運業を営むには 船を動かす者たちとの信頼関係が必須不可欠です」セバス
「ですから お嬢様は こちらの特等室でおくつろぎくださいませ。
商談は これまで通り私とタンタンに任せて。
そして こちらの特等室は天河家の船上館ともいえますから、
当然 私・タンタン、シノ・ピピ・ララもご一緒しますので、
費用面でも さほど心配なさることはありません。」セバス
「ということは ここで 商談もするの?」
「いいえ それは 別に用意します。
ここは あくまでも部外者立ち入り禁止の、お館であります」セバス
「保安上の注意は 後で改めてするよ」シノ
「いいですか、ジョーダンからハテンにつくまでの 船旅の前半は、
一般乗客や 各地の領主達が 船客として この天海に乗船します。
その時に、この船で一番高い特等船室に 海運会社社長であるお嬢様がいなかったら
新会社天海の面子も 竹林省領主の面子も丸つぶれ。
天河家の沽券にかかわります。
見栄を張る必要はありませんが
ケチケチして 足元を見られたり、見くびられたり、
吝嗇だと侮られるようなことがあってはならないのです!決して!」
セバスは きっぱりと力説した。
(なるほど~
いくら質素倹約を常とする貧乏領主と言えども、メンツと沽券は守らなければいけないんだぁ
むつかしいなぁ 大人の世界
領地での生活は 庶民の低所得者なみでも、
領外に出たら それなりの体裁を整えなければいけないのかぁ・・・)
そんな私の思いをよそに ララが楽しそうに言った。
「食事や船内サービスは 船室の格に応じてますから、特等室を利用すると言うことは、乗客の中で最高の食事とサービスが受けられると言うことです」
(うん それは楽しみかもしれない)
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