年越しの儀と試練の儀
ヒノモト国の大晦日は冬至の日だ。
新領主が誕生した年は まず領主全員がバンザイ国王の前で踊りを披露して
新領主だけが試練の間に連れて行かれて一晩をすごすことになる。
そしてほかの領主たちは 例年通り、大広間で飲めや歌えの大騒ぎ
そして全員で初日の出を拝んで就寝(いったん下向する)
そして元旦の夕暮れからダンスパーティ
正月2日目の朝に 今年はアロハオエを踊って解散となる。
というわけで 初顔合わせの領主たちの先頭にたって、カ・マテの掛け声をかけた。
バンザイ国では 先頭に立った者がリードし踊るのだそうだ。
最初のかけあいで 「カ オラ!」の声があまりに小さくバラバラなので
半身になってふりかえり
「声が小さい! お前達死んだままで良いのか!」と叱咤して
もう一度 掛け合いをして全員の心を一つにしてから、私は前に向き直って
「テネイ テ タナタ プッフル=フル」に移ると やはりフレーズを繰り返してきたので
そのまま「フィティテラ!」まで行き、すかざず「もう一度全員で」と掛け声かけて
「フィティ テ ラ!」を全員で声をそろえてしめくくることができた。
国王は立ちあがり 他の大臣たちもあわてて立ち上がりスタンディングオペレーション。
私は こぶしを床につけ膝をついて礼をとった。
領主たちもそれに倣った。
「みごと。みごとであったぞ。
フィティテラ! 来年も太陽は我らの頭上に輝くであろう。
皆の者無礼講じゃ!
そして若者よ。お主の雄姿が掛け声だけではないことを証明してまいれ」
と国王からのおことば。
というわけで 私は 神官の後について王宮の地下に連れて行かれた。
私の後ろからシノがついてきた。
王宮の地下室の廊下のつきあたりまで 灯なしですすんだ。
「今年は 松明の儀がなくなった。
声を立てずに その突き当りの部屋で一晩過ごせば合格じゃ。
わしらは 扉の外で聞き耳を立てておるからな。
さあすすめ」
神官に命じられ、扉をあけて部屋の中に入った。
分厚い扉はバタンとしまった。
明かりが部屋の外にもれることもなさそうだ。
儀式用の剣帯の中にろうそくとマッチを仕込んであったので、火をともし室内を見回した。
目の前に深い竪穴があった。
飾り紐の中にまぎれこませてあった、ワイヤーに灯をぶら下げて穴の中に降ろした。
予想どうり 横穴があった。
明かりを引き上げ、道具類をもとにもどしてから、
両足そろえて穴に飛び込み 壁を蹴って横穴にとびこむことができた。
山奥でこのやり方をシノから教わっていてよかった。
残念ながら 王宮の地下の横穴には 備蓄品はなかった。
しかし 清潔な寝具の入ったベッドがあったので そこで休むことにした。
ろうそくを消して寝た。
体感時間の夜明け前に目覚めたので、服の飾りボタンの中に隠してあった栄養剤を取り出して飲んだ。いわゆる「飲む酸素&プロテイン&ビタミン」だ。
衣服を整え終わったら、扉のあく音がしたので、暗闇の中を通路の端まで行くと
ロープが投げ込まれ、「お嬢様」というシノの声がした。
ロープを持って壁を登ったら、シノが手を差し伸べて床の上にひきあげてくれた。
二人で扉を中からあけて廊下に出た。
意外に重かった。
後で聞いたのだけど、この扉は 廊下側から手前に開くときには、事前の操作で簡単に開くようになっていて、
部屋側から開くときには、事前操作ができないから
一度手前に引いて 仕掛けを解除してから廊下側に押し開く形式らしい。
この手前に引く作業がものすごく力がいるのである。
しかも 扉のふち近くに縦穴が広がっているから><
廊下で待っていた神官は「そのまま黙ってついてきなさい」と言って歩き始めた。
王座の前に連れて行かれた。
神官は「合格です」と一言述べて後じさった。
王は頭のてっぺんからつま先までじろじろと私を見て言った。
「竹林省は 良き領主を得たようだ。
汝を 竹林省の新領主として認める
優秀な成績で課題をこなした褒美に、竹林県と松林県と梅園県の直轄統治を認める。
しっかりとおさめよ!」
「はっ」
周囲では 様々な視線が飛び交っていたが 王はそれを無視して
「さあ 初日の出を見に行こう!」と歩き始めた。
一同も そのあとに続いた。
王・大臣・領主たちの周囲を めいめいの護衛や近習がとりまきながら。
気が付くと 私の回りには セバス・タンタン・シノ・ピピが居た。
シノと私は白い服 セバス達は緑の服だった。
王宮の奥のテラスに出ると、足下は絶壁だった。
広いテラスの上で 初日の出を拝んだ。
(王都 ジョーダンは西海岸にあるので、初日の出は、王宮を照らす朝日となる
それゆえ 初日の出を見る為のテラスは、王宮から海に向かって細長く突き出す仕様である)
※ 土日休日は 朝8時
月~金は 朝7時の1回投稿です




