これまでの振り返り
相変わらずの貧乏領主ではあったものの、来年度以降も安定した領地経営ができるだけの 経済的目途がたった。
というわけで いよいよ 国王への就任あいさつを兼ねた年賀の為に出発だ!
と言っても経費節約のために ギリギリになるまで出立させてもらえなかった。ぐすん。
さしせまってやることがないので、これまでのできごとを頭の中で振り返ってみた。
「ねえ セバスチャン」
「なんです急に」
「就任レセプションの時に あなたたしか「これまで大臣を務めてきた方」を私に紹介したよね。」
「私はそんなことは言ってません。単に役職と氏名を言ったまでです。
だって1日限定とかって注釈つけたら 出席者だって気分が悪いし
あなただって混乱するでしょう」
「うーん そうだった?
私がかってに これまで大臣だったった方と解釈しただけ?」
「あなたがどう解釈したかまでは存じません!」
ヤレヤレ
「そもそも あなた十二単の重さで体力を使い果たして
レセプションでは かなりおつむりがぼんやりしていたのではありませんか?」
なんちゅう性格の悪い執事だろうか?
「んじゃ もう一つ質問!」
「なんです」
「あのね、領主就任3日前なんて ものすごいタイミングで 私の目が覚めたはどうして?
私がめざめなかったら 新領主は誰になっていたの?」
「あーそれはですね、フローラに聞いて下さい」
セバスは逃げた!
そこで 同じ部屋で机に向かっていたフローラに尋ねた。
「ねえ ねえ どうして?」
フローラは顔をあげ、
「お茶にしましょうか」と言った。
すでにセバスチャンは 立ち上がってお茶の準備を始めていた。
「もしも お嬢様が目覚めなかった場合は、里から新領主となる者を呼び寄せていました」
お茶を飲みながら ゆっくりとした口調で答えるフローラ
「え~ そんな人いたのぉ~」
「います。」
「その場合 私はどうなっていたのかしら?」
「もちろん お嬢様がお目覚めになるまで セバスと新任の女官が付き添ってお世話していましたよ」
「うわぁ~」(ショックだ)
「ですがね、お嬢様の誕生日1か月前から
フローラは 毎朝毎晩 お嬢様が早く 健やかにおめざめになりますようにと
氏神様にお祈りしていたんですよ」
セバスがとりなすように言った。
「そうなの?」フローラに問いかけた。
フローラは気まずそうに言った。
「お嬢様が 誕生日三日前までに目覚めてくださった方が 後継者問題でもめなくて済みますからね」
「口では こんなこと言ってますが
フローラは 本当にお嬢様のことを 大切に大切にお世話していたのですから」セバス
「10年以上も眠っていたのに 褥瘡もできていないし、
筋力は落ちていても 健康なまま目覚めることができたのは
その間 きちんと世話をしてもらえていたからだと思う。
だから フローラに感謝こそすれ、悪く思ったりしないわ」
私は二人に言った。
フローラは少しだけ顔を赤らめて
「ありがとうございます」と言った。
「ところで 私の代わりに領主になっていたかもしれない人には いつ会えるの?」
「たとえ出会うことがあったとしても 私は教えません!
第一 私は だれがその任につくことになっていたか知りません」とセバスチャン
「じゃあ この件について知っているのは誰とだれとだれなの?」
「その件については これまでも 今後も だれも 口にしませんよ。
だって こんなこと、口の端にのせるだけで 変なわだかまりが生じかねませんからね!」
フローラがきっぱりと言った。
「とにかく 大事なことは お嬢様の目覚めが間に合い、
お嬢様は すでに新領主として しっかりと歩き始めているということです!」
フローラとセバスが 声をそろえて断言した。




