バッキ―のパン屋さん③:夕食用の宅配弁当(福祉事業)と強欲オカミ
お年寄りたちが せっせと毎日、モーニングサービスを食べてに来ては、
夕食用にとパンを買って帰るところに目をつけたのがオカミである。
なんと 朝の9時半から10時の30分間限定販売で 持ち帰り弁当を売らせてくれと言ってきたのだ。
しかし食中毒が怖いからと断りました。
その一方で、福祉対策もかねて、オープンテラスで 夕食の宅配を承ることした。
配達はウマイヤ
献立の監修はフローラ。
やはり 外食を主とする高齢者には 栄養バランスの良いものを提供したいですからね。
これは福祉事業と位置付けて、販売価格は配達料込の実費販売です。
これでは オカミの儲けにならないと文句を言われましたが
「これは あくまでも領主が行う福祉事業で「バッキ―のパン屋」とは別。
ただ、注文の承りにバッキ―が協力しているだけ!」と、つっぱねた。
「もともとオカミは昼定食の提供で手いっぱいだし、
それを どうしても 短時間でいいから、オープンテラスの仕事を手伝わせてくれというから
短期間 アルバイトとして雇っただけ。
それも 仕事がきついからと言う理由で オカミはすぐにやめてしまっている。
だから、今後一切、バッキ―のパン屋の運営に、手も口も出さないでいただきたい」と伝えた。
するとオカミは
「自分も福祉事業に携わりたいから、オカミの店の調理スペースを提供する」と言い出した。
そこで あとくされのないように、「毎日1時間だけ借りる賃貸料を支払うということで満足してもらうことにした。
「確かに欲をかいても ろくなことにならないしねー。
なにもしなくても毎日 わずかでも収入が増えることで良しとしないとね」オカミ
「わずかですって! アルバイトの時給800円の時代に なにもせずに毎日1000円入ってくることに不服があるなら、場所代も1か月につき2.4万に値下げするわ!こっちは 1円の儲けも出さないのだから!!」
オカミはぎょっとした顔をしたが、何もせずに毎年28万8000円の収入があれば、1か月分の生活費が浮くと思うと 悪い話じゃないと納得。
「契約は1か月更新で打ち切りはいつでも可能、違約金なしということにしましょう」
とセバスが口を挟んだ。
オカミはにんまりとしてその条件をのんだ。そして
「場所を使わなくても 料金は頂きますよ」と言った。
我々はその条件をのんだ。
・・・
(城に戻ってから会話)
「別にオカミの店の調理場を借りる必要がなかったのですよ」ウマイヤ
「わかってる。でもまあ アイデア泥棒と言われない為よ」
「彼女絶対に来月分から契約解除か賃貸料の値上げかと持ちかけてきますよ」
セバスとウマイヤが口をそろえて言う。
「もともと あそこを使う気は一切ないから、1か月分の賃貸料だけ支払って、今月末までに打ち切るわ」
「え~っ!」セバス&ウマイヤ
フローラが笑いながら言った。
「だって あんな人の調理場を借りたら、汚れた調理場を使わされたり
調味料や食材に手を付けたと難癖をつけられたり
1分でも調理場を出るのが遅れたら 延長料金だの迷惑料を支払えとごねられたり
ろくなことになりませんよ。
アイデア料の交渉をするのがめんどうだから 1か月分だけ場所代を支払うことにしたのでしょ」
「領主様って意外と腹黒い」バッキ―
「あなたがそれを言う?
私と同じことを考えていたのではないの?」
「あはは ばれましたか」
バッキ―の言葉を聞いて セバスとウマイヤはつぶやいた
「女ってコワイ」
「私達は オカミの顔ではなく 調理場を見てましたから」
私達3人は声をそろえた。
◇ ◇
セバスは あわてて、モーニングコーナーやオープンテラス・セルフサービス・宅配弁当などの商業特許を取得した。
ケイタ―商会への根回しは とっくに私とフローラですませていた。
この宅配弁当は、お年寄りだけでなく、病弱な人や子育て家庭などからの利用希望が多く出た。
そこで順次 雇人を増やし、やがて地区ごとに給食センターも用意して、「年寄用・病虚弱者用・離乳食用・幼児食・妊婦・授乳中の女性用」の宅配メニューも展開した。
なお健康な成人用の弁当は、庶民の商売の邪魔にならないように、民間事業に任せた。
弱者への宅配事業は あくまでも 領主による福利厚生事業の一環なのだと位置づけて。
だから販売価格の中には、材料費・人件費・配達料などのほかに、施設・設備などを用意した時の費用を30年で償却すると仮定してその分を積み立てる金額も含まれている。
(早い話が 領主が先にお金を一括払いして、その分を売上金から返金していくわけだ。
そして 律儀な領主は、市民から返金された分を 次の福祉事業や公共事業の資金にするわけ)
ちなみに、離乳食や幼児食を 成人用とは完全に別に調理するという発想がヒノモト国にはなかったので
あるいは 嚥下力や消化力の弱った老人や虚弱者の為の調理方法も一般的には知られていなかったので、フローラと私で そうした調理方法の講習会をたびたび開いて一般に知らせたり、雇人達の訓練を行なった。
その結果、病人の回復が促進されたり、乳幼児の死亡率が下がって、竹林省内の健康度がずいぶん上がった。
さらにまた、妊産婦~授乳期の女性達の死亡率が著しく低下して、妊娠・出産の危険度も減った。
やはり妊娠中の過労は 流産のみならず出産時の死亡率をも高めてしまう。
俗にいう育児ノイローゼも、子供が幼いうちに「儚くなくなってしまう女性」も
その死亡の主因は 過労である!
男性たちは 女性達がどれほど働いているかを意識しないから
女性の死亡原因が「過労」であるということを ことさらに無視しがちであるが。
(もっとも育児ノイローゼの主因は 3時間おきの授乳に伴う睡眠不足による過労であるが)
◇ ◇
「バッキ―のパン屋さん」については、
店の改装費や備品を城から出していること、
アルバイトの小母さんの雇用主はバッキ―だが、
それ以外の従業員は、バッキ―やウマイヤも含めて 全員 天河家の雇用となっていること
帳簿のつけ方から販売方法に至るまで、運営に必要なノウハウの大半を天河家の者が
バッキ―達に教えていること
しかも、店の販売益が出るまでの原料費の仕入れ代金同様、アルバイト料の建て替え等も私が負担していることから、
収益がでるようになったら、それを私とバッキ―とで半分分けすることにした。
この収益とは、売上代金から 材料費・固定費用・アルバイトの賃金などを引いた残りである。
そして 収益が上がるようになれば、スペシャルメニューの調理をしているウマイヤへのボーナスを
バッキ―が支払うらしい。
二人のボーナスの取り決めについては 私は関知しない。
セバスの目から見て ウマイヤが1人前ということになるまでは
そしてフローラやタンタンの助けを借りなくても バッキ―が店の経営を一人で切り回すようにできるまでは、
「バッキ―のパン屋さん」というのは、天河家の事業の一つであるというのが、
バッキ―の認識であった。
将来、バッキ―が城勤めをやめて、パン屋業に専念し、
天河家の福祉事業とも分離してしまうのか、
それとも「バッキ―のパン屋さん」が名実共に 天河家の事業となるのかは
今のところ分からない。
バッキ―の気持ちと能力の伸長次第といったところである。
雇用契約において こういうアバウトさが許されるのも、「誓約」での縛りがあればこそである。
領主階級だけが持ち、領主のみが利用できる、聖約魔法のありがたさ。
だからこそ 領主には高い倫理観が要求されるのだ。
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