自学自習:ウマイヤとバッキー
ウマイヤとバッキ―を雇用してすぐに明らかになったのが 予想以上にひどかった学力の低さ。
一般教養の不足
「やはり 貴族階級の教育レベルと庶民階級の教育レベルの差はかなりのものですね」
嘆息するセバスチャン。
「見た目の生活水準はほとんど変わりがないのに」とぼやく。
「ほとんどって どこが同じでどこが違うの?」私
「やはり 先祖伝来の食器とか家具とか道具とかが違いますね。
それにご領主様の場合は 建物も。
でも 建物が立派でも、
広くて多機能付属でしかも用途別に部屋を使い分けている分だけ維持費が高くつくので
毎日自由に使えるお金は 庶民よりもはるかに少ないです。
たぶん 生活費の切りつめぶりは 貧困層並ではないかと」セバスチャン
「タンタンには、巡察官として領内各地を巡る仕事がありますから、
いつまでもバッキ―のお守りをさせておくわけにはいきません。
これでは シノを二人の教育係につけざるを得ませんね」セバスチャン
「あなたとタンタンで かなりの指導を行なってきたのだから
ウマイヤとバッキ―には もっと自習を奨励したらいいんじゃない?
なにもつききっりで教える必要ないでしょう。
ちょっと甘やかしすぎじゃない?」
「でも 家庭教師って つきっきりで できるようになるまでそばにいるものではありませんか?」セバス
「見張り役なの、家庭教師って?」
「こどもって 見張ってないとさぼるでしょ」セバス
「え~~!」
「ご領主様の意見に賛成です。
子どもは一人で反復練習をして、師から教えられたことをモノにしてこそ、
学習の意味があるのです。
って いつも私は 言ってましたよね」
同じ部屋で執務をとっていたフローラが書類から目を離していった。
「君は書類仕事をしながら 人の話も聞いていたのか?」セバスチャン
「それくらいできなくては 大臣は務まりません」フローラ
どうやら フローラの方が優秀だと言うのは本当らしい。
「自学自習ができないようなら 街でパン屋を経営することすら無理でしょう。
そんな役立たずを城で養う予算もありません」ぴしりとフローラは言った。
というわけで、バッキーとウマイヤは 1か月後の試験に合格しないと 以後生活費と補習授業料を徴収すると言い渡された。
バッキーは、自分に与えられた課題が パン屋として独立営業していくためにも必要な基礎知識であることを理解していたので、素直にフローラの言葉を受け入れた。
そんなバッキーの姿をみて ウマイヤは口まで出かかった不服の言葉を飲み込んだ。
彼とて ケイタ―の息子が幼い頃から勉強させられていた姿を見ていた。
これまで自分はケイタ―の息子の頭が悪いからあんなに勉強させられていると思っていたが、
もしかしたら あれは経営者になるための勉強をしていたのかもしれないと、
フローラに感謝の言葉を述べているバッキーの言葉から気づいたのだ。
そして素直に学習機会が与えられたことに感謝して自習に励むフローラを見て、自分の甘えに気付かされた。
ケイタ―から息子のようにかわいがられていても、自分は跡取り教育を受けていなかったこと、
なのにケイタ―の息子と同等の能力があるかのように驕っていたことが、ケイタ―の息子の妻から嫌われる原因であったと気づいた時、ウマイヤは大変ショックだった。
「なんだか裏切られた気がする」
ある日ウマイヤはバッキーにぐちった。
「何言ってんの。
経営について知っていたら あなたは独立しようとしたでしょ。
そしたら ケイタ―さんのお店と共倒れになるか、互いにつぶしあうことになった。
だから あなたが独立する機会が訪れるまでケイタ―さんは あなたに何も教えなかった。
でも 彼は ちゃんと あなたに使用人頭としてやっていくだけのことはきちんと教えたし、
あなたが独り立ちできるチャンスをつかめるようにお城に推挙してくれたじゃない。」
「バッキー 君からそんな言葉を聞くとは思わなかったよ。」
「私 自分のことは全然わからなかったけど
他の人達のことは 注意して見てたのよ。
あなたの兄嫁さんだって 祖母がいない時を選んで いろんな料理を持ってきては食べさせてくれたもの。
食べ歩きに連れ出せなくてごめんねって言いながら。
おかげで すごく勉強になった。感謝してる」
「そのことも まったく知らなかった。」
「当たり前よ 壁に耳あり 障子にメアリー。
当時、私に親切にしていたことを誰かに気付かれていたら あんたんちが破滅してたと思う。
だから 兄嫁さんが来てくれたのは ケイタ―父子の了解の下でこっそりと、
だったんじゃないかなぁって 私は今でも思ってる」
ウマイヤは自分の不明を恥じ 謙虚にもっと熱心に学習を始めた。
※ 土日休日は 朝8時
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