噂の出所
(領主就任3日目の夕方以後の話)
バッキ―と面談して戻ってすぐに、
バッキ―を誹謗(悪口を言って相手の評判を落とす)・中傷(根拠のないウソやでたらめを並べる)する噂について調べるようにセバスに命じた。
私が何年も眠っていた間に、竹林省の内政をつかさどっていたのはフローラだった。
彼女は 様々な人材とのつながりを持っていた。
そのうちの一人が、隠密の心得もある女剣客「しの」であった。
セバスは フローラの仲介で、シノに探索を命じた。
シノは、ウマイヤがセバスチャンにバッキ―について知っていることを話すのを天井裏で聴いていた。
それだけでなく、例のイヤホン型送受信機を使って セバスを通してウマイヤを尋問することまでやったらしい。
それらの情報も使って、シノは 以前バッキ―に声をかけたという商人を見つけ出し
その者から情報を得た。
今ではタンタンと名乗るようになっていた元商人は、黒幕がバッキ―の祖母である証拠をそろえて提出した。
なんでも 身の潔白を証明するために以前から調べあげていたらしい。
ではなぜ それを自分の為に役立てなかったのかと言えば・・
自分を追放した領主が信用できず かといって 我が領では長年領主が幼く執事しかいなかったので・・国王に訴えに行こうかとも思ったが・・先立つものがなくて・・探偵業のようなことをしながら旅費をためつつ 新領主の就任に淡い期待を持って待っていたらしい。
「私は ここと両隣の領がまだ一つだったころのことを両親から聞かされて育ったので
どちらの土地にも親しみを感じているのです」とタンタンは言った。
なんでも私の両親が急死した直後に、竹林省が分裂して、
今の竹林県と、その両隣の松林県と梅園県になったらしい。
そして 今も 私は名目上は 竹林省全体の領主だが
実行支配しているのが、竹林県のみで、
もともと天河家の傍流ともよべないほど外れた一族の末裔が県令を務めていた松林県と梅園県の県令がそれぞれの県の「領主」を僭称するようになったそうだ。
どうりで レセプションの時にあった記憶がないはずだわ。
来てなかったんだもん(笑)(・・;)
そして 最初の頃にセバスから説明をきいた時には 私は県と領の違いが判ってなかったみたい。(・・;)
・・・
バッキ―の祖母は 梅園県の県令(現在領主を僭称する者)の伯母(=県令の父の姉)だった。
身持ちが悪くいうえに いろいろやらかし、梅園県にいずらくなり ぺんぺんに来た。
名前をマーコという。
ぺんぺんでは、父親のしれない子を産んだ女性を差別したりしないし、
住民たちは穏やかな気風だったので、マーコも気楽にペンペンと郷里を行き来しながら
したたかに世をわたり、
竹林省随一のパン屋だった家に、息子を婿入りさせた。
息子が婿入りした直後に、それまで元気いっぱいだったパン屋夫婦は急死。
パン屋の娘=息子の嫁もまた、パン焼きの名手だった。
しかし 両親が亡くなった時は、ちょうどハネムーンベビーをその身に宿してつわりに苦しみだした頃だった。
しかも、落ち着く間もなく マーコの息子も死亡。
心身ともに打ちのめされた嫁の世話をするという名目で、マーコが パン屋の娘(マーコの亡き息子の嫁)の家に強引に住み着く。
結婚後、相次いで家族を失い、苦労続きのまま出産・子育てに追われたパン屋の娘(=バッキ―の母)。
マーコは そんな嫁を支援しているのだと、言葉巧みに町の者達をだましたあげく
嫁に無理やり焼かせたパンを「おばあちゃんの手作りパン」と銘打って、
マーコの焼いたパンだと宣伝して売り出した。
そのような状況下でもバッキ―の母は 精一杯娘を大切に育て、
その為に自分の名誉を捨て、家業の乗っ取りにも耐えた。
バッキ―は母からパン焼きの腕を仕込まれていたので 母に負けないほどパン焼きが上手になった。
すると あらあら不思議、バッキ―の母もあっけなく死んでしまった。
バッキ―が、母のレシピを全て身に着けてしまった7才の時に、
バッキーの母つまり マーコの亡き息子の嫁は、馬にはねられて死亡。
以後 マーコは 孫のバッキ―をこき使ってパン屋を営んできた。
嫁が死んでからというもの マーコは、バッキ―が商品を作る時に
横からいろいろ口を挟んで「指導」していた。
その結果、実はバッキ―が最初から最後まで一人でパンを作り上げていても
バッキ―は 自分は祖母のお手伝いをしているだけ、出来上がったパンは祖母の手作りパンと思い込まされたのだ。
マーコは バッキ―が洗い物や厨房の片付けなどをしているときに、あれこれ難癖をつけたり、別の用事を言いつけては、バッキ―のミスを誘ったり、バッキ―の仕事ぶりが遅い、バッキ―はとろい、と叱責を続けたり、
永年手法を替えつつバッキ―を批判し続けた。
さらに バッキ―が下ごしらえしている途中に、
「点検の為」と称して横入りしては生地にこっそりと砂糖を混ぜておき、
それをバッキ―に焼かせて、マーコが念入りに指導監督したパンなのだからと「おばあちゃんの特製パン」と名付けてして売り出していた。
しかも バッキ―がオリジナルパンを作ることも許し
それらが店頭で人気が出だすと 巧みに悪評を流してバッキ―の自信を喪失させ
バッキ―を自分に縛り付けるという念の入れよう。
その一切合切を タンタンは調べ上げていた。
聞き込み調査・証人の確保・宣誓供述書
仕入れや売り上げ伝票のうつしとそれを裏付ける 納入業者や購買者の証言
「おばあちゃんの特製パン」の成分分析結果と、全商品の焼き加減などの評価表
これら商品鑑定を行ったのは 国王直属のパン焼き職人であった。
「いったい 国王直属のパン焼き職人にどうやって調べてもらったの?」私
「これは バッキ―さんを独立させる時に 推薦書をもらおうとあらかじめ手配しておいた分です」
「なぜそれを 隣の領主じゃなかった県令にみせなかったの?」
「問答無用でつかまって追放されました。
執行した役人の氏名と その者にわいろを送っていた者のリストがこちらです。
特に 私が捕まる直前にわいろを贈ったこの3人の名前を見てください。
バッキ―の祖母と、私の財産を競売にかけて手数料を稼いだ男と 私の商売を乗っ取った男の3人です」タンタン
「なるほど」
「これらの証拠・証人についての裏どりもしました。
タンタンが接触できなかった人物からの証言もあり、間違いありませんでした」とシノ&セバス。
平日 :朝7時
土日祝休日 :朝8時 投稿予定です




