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貧乏領主になりました  作者: 木苺
    花号に乗って♬
117/123

西の入江の港町:漁港と消費地との関係

西の入り江の北岸、つまりペンペンに近い側には、倉庫や、大通りにつながる広場が並んでいた。

船から揚げた荷を そのまま馬車に積み替えて各地へ輸送したり、

内陸から運んできた荷を倉庫に保管し、船の入港に合わせて積み出しやすいように設計されている。


荷揚げの終わった船がさらに停泊を続ける場合は、港湾長の指示に基づいて、

入り江の奥(西岸)に移動して停泊するか、

自分達が乗ってきた小船をどっこらしょと引き上げ、担いで船小屋まで運び込むことになる。 



一方南岸には、水産物の加工場や漁師小屋などが並んでいる。


漁師たちは、主に南岸から出港し、漁が済めばそのままペンペンまで、海産物を運び

再び西の入り江の南岸に着岸する。


漁師たちの船の停泊場所と漁師小屋は船ごとにきちんと割り当てられている。


言い換えるなら西町の住民全体が保有する漁船の総数は南岸の、輸送船の総数は北岸の、停泊場所の割り当て数を超えることがないように制限されている。


そして輸送船は、主に西町・ペンペン・東町を行き来する船であり、輸送船の船主はこれまで西町と東町に限られていた。

なので、毎年、領主館で、領主(代行)の立ち合いの元、西町・東町それぞれの町長と港湾長が、それぞれの港の停泊所の割り当てと各町が保有する輸送船及び廃船・新造船の確認と協議を行っていた。

 西町の停泊場所に余裕があるからと船の数を増やしても、寄港先の東町の停泊所や物揚場の受け入れ能力がなければ、船を動かせないからである。



干潮の時に、入り江に横切るには、ポートや小船を担いで行って 海におろして、対岸まで渡っていく。


なんでも 西の入り江は、段丘の切れ目からいきなり深くなっているので、干潮の時に海に向かって足を踏み出してはいけないそうだ。

 チャンと下ろした船に乗りこまないと危ない


一応、段丘と海底との境目を示すブイは 所々に浮かんでいる。


~~~

私達は、南岸にわたり、漁師のトアルさんから、漁師小屋の中を案内してもらった。

トアルさんは、漁師たちを(たば)ねる組合長だ。


組合長は、港湾長と協力して、南岸にある、漁船の停泊地と漁師小屋の割り当て・管理をしている。


もし よそ者が勝手に南岸に接岸しようとしたら、組合長がそれを阻止しに行くと同時に、港湾長にも連絡を入れる。よそ者が組合長の指示に従わないときは港湾長が飛んでくる。

よそ者が、素直に北岸へとむかえば、そこで待ち構えていた港湾長が愚か者に対して厳重注意に及ぶ。


逆に緊急時には、港湾長の依頼を受けて、組合長が漁師たちに、各自の漁船を一斉に漁師小屋に引き上げさせ、南岸の船着き場を臨時で外部の船の避難場所に提供することもある。


漁師小屋の中には 舟を置くための架台があった。

 舟の平底部分を載せるための台は、

 船底を傷つけないように、表面がなめらかにつるつるに磨き上げられていた。

 さらに、船のカーブした側面を支える「ウマ」と呼ぶ架台もあった。

 「ウマ」も表面はなめらかで、意外と軽かった。


ロフトには、帆柱や(かい)(=オール)の予備も置いてあった。

壁面の棚には いろいろな道具類がきちんと並べてあった。


漁網を広げて乾かしている場所もあった。


漁師小屋の戸をあけ放って、網のつくろいや帆の手入れをしている人もいた。


そのかたわらで、クルクル回るモノがあったのでよく見ると、

主軸のてっぺんにつけた羽で風を受け止め、主軸を回転させることにより、

主軸から突き出た腕木がクルクル回り、そこにぶら下がった小さなイカがひらひらしていた。


日当たりの良い場所に置かれた大きな台の上に、海藻が広げられ、

台の四隅に立つ棒を使って小さな蚊帳をつって、虫よけ・ほこりよけしている光景を見たときには

天海号での生活を思い出した。


加工する魚や海藻などの種類は その時々によって、ちがうそうだ。


「加工品には 自家用と出荷用があります。」トアル


「海藻類は遠くの町まで出荷できるので 販売用にある程度の量を作りますが

 一夜干しはそれほど日持ちがしないので、せいぜい、ちょっと魚が取れすぎたときに、明日まで自家用にとっておくための工夫って感じですね。」トアル


~~~

そもそも、竹林省では、イベントの時以外は、人々の動きも決まっているので、

鮮魚についても、西町の住民が食べる分量、ペンペンの住人が食べる分量がほぼ毎日決まっている。


漁師は、西町と東町に固まっているので、ペンペンに水揚げする毎日の漁獲量は、毎月、ペンペンの市場長・西町・東町との組合長で話し合って取り決めているのだそうだ。


いいかえるなら 漁師たちも 自分達に割り当てられた分量以外の魚は取らない。

 欲ばって 魚を取っても 食べきれずに腐らせてしまうだけだから。


そこが 「人口密集都市=慢性食糧不足の大消費地」に隣接した漁港(獲ればとっただけ売れる土地)とのちがいである。


究極の地産地消

 それは 食べる分しか採らない!、食べる分だけ獲れば良い、ゆとりある食料供給

 需給バランスの取れた生活圏の確立である。



そのような観点からすると、冷凍・冷蔵・その他長期保存技術の開発と長距離運輸体制をつくって、生活圏を広げることは

一見、多くの人間の腹を満たす社会のように見えて

実は 運送網が途切れたり、保存コストが破綻する=保存のためのエネルギーが不足すると

一気に 大量の人々が飢え死にする脆さを秘めているのではなかろうか?


 天日干しでは、十分に乾燥できない・気温が上がれば食中毒リスクも上がる

  ⇒燻製・蒸してから乾燥させるなど、火力を用いて乾物にする

    =日持ちのする干物にするには、余分なエネルギーを消費する


 冷凍・冷蔵=保冷装置を作るためにエネルギーを消費 保冷を維持するためにエネルギーを消費


 運送距離が延びる=輸送のためのエネルギーがさらに増える


・ところで、ペンペンの市場長というのは、ペンペンの住民数に応じた食料需要をはじき出す係の人で、その担当がセバス。

 セバス不在の時には、フローラの指導のもとウマイヤが代理を務めていたというからびっくりである。


 このことについては、花号出港時にフローラから受けた助言に基づいて、

 西町上陸後すぐに閲覧した、西町港湾事務所資料に書いてあった。


  いやはや とんだ実地教育である!!

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