秋・ハロウィン編
三部目秋編です。ハロウィンがテーマとなっています。
灯が拗らせます。
「秋・ハロウィン編」
寄稿: 平修
「今年もこの季節だね………灯?」
ボロアパートの一室で長髪の女子が真剣な面持ちでの前の女子に話しかける。
灯と呼ばれた女子――髪はショートのボブで落ち着いた雰囲気を醸し出している―――が憂鬱そうな眼で返事をする。
「何? 明子……とうとう自首する覚悟でもできたのかしら?」
明子と呼ばれた女子はテンション高めにそれを全力で否定する。
「の~アカリちゃーんワタシマダナニモシテマセーン」
「お前なぜ片言だ。エセ外国人か」
明子は人差し指を左右に振って。
「ちっ、ちっ、ちっ………今時代はハロウィンなのだよ! 灯ちゃ~ん」
灯はキョトンとして。
「ハロウィン? 仮装でもするのあなた?」
明子に言う。
言われた明子は心底呆れたようにこう返す。
「何いってんの灯ちゃん? あなたも仮装するのですよ~」
沈黙三秒。
「はぁ!? あんた何いってんの明子? 私はあんな奇天烈な服着て街を闊歩したりしたくないわよ!」
灯が絶叫する。
「誰もそこまで言ってないけど! でも仮装はするよっ」
明子はツッコミとともに力強く言う。
「クッ………私街中でハロウィンの日に露出しすぎて捕まるのだわ、もうお終いよ!」
灯が崩れ落ちるような暗い声で言う。
「灯ちゃん大げさー、と言うか珍しく壊れてる」
「お前が私を壊したんだろーが! あんたの方が逝かれているだろ―――ふんっ!」
「ぎゃ」
灯が明子を殴る。
明子は殴られた顔面をさすって。
「暴力反対~あと私、いかれているんじゃなくて平常運転だから」
しれっと、灯に抗議をした。
「貴様さては私と戦争するつもりか」
火に油を注がれた灯に対して明子がため息をつく。
「灯ちゃんおとなげなーい、ハロウィンなら何かしら楽しむのがお祭り大国日本の矜持じゃない?」
灯が少し明子のほうが睨む。
「あーあ、残念。灯ちゃん………灯ちゃんが一緒に街にコスプレして出てきてくれればソリジエのパンプキンケーキ奢ろうと思ったのに。
ホント残念」
灯の表情が不機嫌から真剣な面持ちに変わる。
「聞き捨てならないわね! パンプキンケーキ? ハロウィン限定なのかしら………欲しいし食べたい!」
明子はニヤリとして灯に言う。
「欲望に忠実だね? 灯ちゃんは~。ふっふっふ、じゃあコスプレしてくれるんだよね?」
「そうね、ちょうど金欠だし、望むところよっ!」
灯が豪語する。
明子がふっ、と笑って言う。
「はいはい」
こうして二人は仮装してハロウィンをエンジョイする目論見を立てた。
これがハロウィンの約二週間前のことだった。
◇◇◇
ハロウィン一週間前。二人はインターネットの通販サイトで仮装の衣装選びをしていた。
「さーて灯ちゃんのやつはどんな衣装にしようかなぁ?」
明子は鼻歌交じりにスマホをいじっている。
「私に選ぶ権利は無いんかいっ! 横暴の極みだよなお前は」
明子はニコニコしながら言う。
「コスプレに満更でもないアカリンでした~」
「勝手に人の感情きめんなっ! 仕方ない、ケーキかかってるし衣装代ソッチ持ちだから大人しく従うわ」
灯はげんなりして言う。
明子は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ選んどくね~? 楽しみにしててねー」
「嫌な予感しかしない」
灯は完全にグロッキーだった。
反対に明子は喜々としてスマホでネットショッピングをするのだった。
◇◇◇
ハロゥイン当日の夕方。
二人はネットで注文した衣装をバッチリ着てメイクをし、街に繰り出した。
二人分メイクをしていたのはもちろん明子。
その間終始テンションが高いのは明子だけだった。
「はーい準備万端! 灯ちゃんも盛り上がってこう!」
「はいはい、てか、なんでこんなゴスロリ服なの着ていて恥ずかしいわ」
意気消沈してる灯に向かって明子が言う。
「えー? い~じゃなーい! フリフリは可愛い。可愛いは正義!」
灯が苛立ったように発狂する。
「なんじゃその理屈! だいたいもっていつもあんたは行動がフリーダムすぎるんだよ、アホッ!」
明子が鼻息荒く言う。
「異論、反対意見は認めませんゆえ」
「ぐあ~っ! お・ま・え! ある意味自由の女神か!? アメリカか? 実はアメリカ生まれなのか貴様ぁっ!」
灯がとうとう壊れて自分でも支離滅裂なことを無自覚なまま吠える。
「のーぷろぶれーむ! じゃあこのまま街に繰り出すついでに帰りは商店街でケーキ買いに行こー。レッツゴー」
「あああああっ」
灯は完全に精神崩壊状態になり明子は楽しそうに彼女を引っ張っていった。
◇◇◇
街につくと仮装した若者でごった返していた。
「やっぱりこうでなきゃね? アカリちゃーん」
「視線が痛いわ、ケーキに釣られた私が馬鹿だった」
二人は濃い化粧にゴスロリ服で目立っていた。
本人たちは気づいていないがクオリティは明子の普段からのコスプレにかける情熱と技術により高い。
そのため注目を浴びていた。
「見られてる見られてる、やっぱこういう仮装はテンション上がるね!」
「あーはいはい」
明子の上機嫌とは反比例して灯はげんなりし続けていた。
一通り街を練り歩き明子はぐだぐだの灯を連れて帰りにケーキを買おうと商店街向かう。
時間は夜なので閉店時間ギリギリだった。
灯は正常な判断ができていなかったため、この時、重大な事に気づいていなかった。
そう。人気商品が閉店時間に残っているはずがないことを。
灯が肩を落としながら言う。
「ない………ないっ! 私のパンプキンケーキっ!」
「灯ちゃんこれは不幸な事故だね」
明子が沈痛な面持ちで肩を落とした灯に言い放つ。
「明子っ! どうしてくれるの、あんたが街中を引き釣り回してくれたからケーキがないじゃない!?」
明子は面倒くさそうに弁明する。
「え~だから事故だよ」
灯の中で何かが砕ける音がした。
「明子さんありがとう今日はタノシカッタワ~」
急に満面の笑みで言う灯。
明子が逆にドン引きして。
「灯ちゃんどうしたっ!? これだけ振り回した私がいうのも難だけど頭のネジ飛んじゃった?」
ジト目で心配する。
「何言ってるの~? 明日お礼にプレゼントするわっ! 楽しみにしてねー」
「―――おっ、おう」
明子は灯の異様な圧に押されて受け答えした。
◇◇◇
―――翌日。11月の最初の日。
明子が起床すると灯はすでにいなかった。
代わりに置き手紙と一つの包み紙が。
「え、なにこれ」
明子が包を開けながら置き手紙に目を遣ると、そこにはこう書かれていた。
『昨日のささやかなお礼です! 受け取ってください、灯』
と、書かれていた。
「なんだ、灯ちゃん不審な挙動していたけどやっぱり楽しんでたんじゃないのー? どれどれ」
明子はそこで絶句する。
「―――ひっ」
包から出てきたのはデッサン人形に釘が刺さっているものだ。とてもではないがプレゼントには見えない。
「後で灯ちゃんに謝ろう、あとケーキ別の物でいいから買ってこう」
◇◇◇
――後日。明子は灯に自分の諸行を謝り、なんとか二人は仲直りした。
それからデッサン人形がしばらくトラウマになったのは明子の心のうちだけにしまい込まれた事実になった。
秋・ハロウィン編(終)
いかがでしょうか。
秋編は「ボケと突っ込みを逆転させる」というお題を頂いて書いています。
そのため難産でした。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。