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映画の感想からひもとく視聴スタイル6タイプ+「きらい」という感情

作者: 猫の玉三郎

映画に限らずゲームのプレイスタイルや小説の読み方にも共通すると思うので、創作のヒントになるかも。ならんかも。

 自分の好きな作品をボロクソに言われるのはカチンとくるし、自分がなにひとつ面白さを見いだせなかった映画に『感動して泣きました。めっちゃ好きですもう一回観に行きます』とのコメントを見たら相手の神経をうたがってしまうのは当然のことだろう。本当に同じものを見たのかと考えこむレベルでもある。


 しかし。


 この面白さが理解できるのは精神的に成熟した人だと思います

 これが好きっていう人は社会にでたことないんだろ


 などのように、相手を煽るような、下に見るようなコメントを読むと悲しい。確かに反対の感想を抱く人は理解はしがたい。それはちがうと声高に叫びたい。自分の感性を否定された気持ちになるからだ。


 同じものを見ているはずなのにどうしてこうもとらえ方が違うのか。好みと言い切ってしまえば終わりだが、それでは少し乱暴すぎる気がする。


 例えば映画「LA•LA•LAND」はラブストーリーとして見るか夢追い人のストーリーとして見るかでだいぶ感じ方が変わる。ラブストーリーに絞ってもバッドエンド派とハッピーエンド派に別れてしまうし、見る人によって形をかえる映画なのだと思う。


 見る人によって、というのは『見る角度によって』と言い換えることもできる。つまり視点の位置だ。


 とくに賛否両論ある作品の感想を読んでいくと、そもそも見るスタンスというか、立ち位置が人によってちがうと感じた。私はそれを6つのタイプに分類してみた。



 ◇視聴スタイル6タイプ


 ①主人公目線型 

 ②主人公憑依型

 ③主人公応援型

 ④客席型 

 ⑤考察型 

 ⑥ひたり型 



 ひとつずつ解説してみる。


 ①主人公目線型 

 主人公の立場になって、主人公の目線で物語を楽しむ。主人公の性格に多少難があっても大丈夫、それなりの理由が主人公にはあるから。このタイプは主人公を通していろんな経験をしたり困難を乗り越えることを自分の糧にしている。ゆえにバッドエンドやビターエンドはNG。特殊性癖の人ならワンチャンあり。


 ②主人公憑依型

 主人公目線型と似ているが、このタイプは共感を抱いたり感情移入できる主人公じゃないと作品を見ることができない。その人の性格やこれまでの生き様によって共感するポイントは各々で違うが、うまく波長があえば作品への没入感が120%にもなる。ハッピーエンド以外はしんどいからイヤ。


 ③主人公応援型

 これも上記ふたつと似ているものの、応援型は主人公のとなりくらいの距離感。好感が持てるか、応援できるかが重要で、性格が悪かったり倫理感がおかしい主人公だとシラけてしまう。憑依型は『共感』だが、応援型は『好感』がポイントである。


 ④客席型 

 客席に座ってスクリーンをながめるがごとく、客観的に作品を見るタイプ。主人公の性格に難があろうがバッドエンドだろうが見れる。その代わりストーリー重視。物語に納得できるかどうかが重要なポイントとなる。世界観やストーリーの矛盾、設定の甘さ、登場人物のあれこれ。そこが気になるとダメ。


 ⑤考察型 

 この作品は我々に何を伝えたいのか。主人公は何をしようとしているのか。もう一歩踏み込んで作品を見るタイプ。鑑賞する作品を提示された課題と受けとることもあり、視聴中は頭がフル回転している。作中に出た疑問に対し「こういうことでは?」と自分なりに考察をするのも好きだし、散らされたメタファーや監督の真意を探すのも好き。


 ⑥ひたり型 

 さとり型とも言う。細かなことは置いといてこの非現実的な作品の世界にひたりましょうと全タイプの中でもっともおおらかな見方。ひたり型はひたることが好きで、重要視するのは作品が持つ要素や雰囲気。例えば映像がいい、音楽がいい、監督がいい。映画館そのものがスイッチになる人もいる。そして好みの要素と合致するととたんに判定が甘々になる。不出来も含めて作品ぞと一種の悟りを開いている場合も往々にしてある。




 では、ここで【性格が最悪な主人公がいろいろとひどい目にあうサメ映画】について感想が6つあったとしよう。


 この映画はクソだ!(☆1)

 主人公に共感できない(☆1)

 スッキリした(☆3)

 ストーリーは妥当(☆3)

 主人公が何をしたかったのかわからない(☆2)

 サメ映画としては良作の部類!(☆5)



 このタイプならこうかなという私の想像だが、何をどう感じてこの感想を抱いたのか、もう少し書いてみる。


 主人公目線型

 この映画はクソだ!(☆1)→主人公がひどい目にあうことがダメ。何が楽しくてこんな作品を見るのかわからない。


 主人公憑依型

 主人公に共感できない(☆1)→主人公に共感できないから作品全部が楽しめない。


 主人公応援型

 スッキリした(☆3)→クソな主人公にヘイトが溜まっていたから展開に少しスッキリした。


 客席型 

 ストーリーは妥当(☆3) →話自体は因果応報と思うので特に問題ない。それよりもいろいろ気になる所がある。


 考察型 

 主人公が何をしたかったのかわからない(☆2)→話は理解できる。でもマジで主人公が何をしたかったのかわからない。


 ひたり型 

 サメ映画としては良作の部類!(☆5)→細かいところはいいの。サメ映画ってそんなものだから。



 総合的な評価は☆2.5という数字だが各タイプの評価はばらばら。そして作品の感想とはだいたいこんなものじゃないだろうか。


 主人公は主人公だから好き嫌いという概念がない主人公目線型の人。そこに応援型の人が「あの主人公ありえない」と言ったら「なんで????」と首を傾げつつ、否定された事実に傷つく。


「ストーリーが歪でいろいろと不自然だ」と憤る客席型に、ひたり型が「そこはいいじゃん。この映像美にひたろうよ」と言おうものなら殺意すらわいてしまうかもしれない。


 各々で譲れないポイントがある。血で血を洗いながす争いを起こさないためには、お互いをよく知ることが大事なのかもしれない。あとは心の余裕と三秒の深呼吸。




 ◇視聴タイプは単一と複合がある


 ひとつのタイプにばっちり当てはまる人もいると思うが、二つ三つのタイプが合わさっている人もいるのではないだろうか。


 そして同じタイプだからと言って同じ感想をいだくわけでもない。時には真逆にもなるだろう。個人が持つ資質というのはそれほどまでに大きい。


 年を重ねていくうちにタイプが変わったり、その日のコンディションや見るジャンルによってタイプが変わることもある。そこに個人の好みや経験が加われば、作品に抱く感想は無限の広がりを見せるのだ。


 そして制作側が伝えたいメッセージは、だいたい主人公目線で見ると伝わってくると思う。なので雑味で振り落とされることない主人公目線型は、お得な立ち位置だと個人的には思っている。




 ◇「きらい」という感情


 感想の中には「これきらい」というものもある。


 おもしろいの反対はつまらない。

 そして好きの反対は無関心であると巷では言われているが、私はきらいでいいと思う。


 私は好きな食べ物はお好み焼きで、きらいな食べ物は椎茸だ。では椎茸に無関心かというとそれは違う。私は不幸な接触事故が起こらぬように、とくに中華系の食品と和食の出汁には椎茸チェックを欠かさない。


 作品にだって「これきらい」はある。

 しかし「つまらない=きらい」にはなり得ない。


 きらいという感情を引き起こすには、強い動機が必要なのだ。心動かされなかった作品はきらいになりようがない。


 そしてその強い動機というのは、「苦痛」ではないかと私は思っている。


 私には「きらいな映画はなんですか」と聞かれたら即座に答える作品がある。それは世間的にはわりと高く評価されているし、「感動した」とか「いちばん好き」とかいう声だって耳に入るのだが、私はあの作品がめちゃくちゃきらいだ。


「きらい」というキツい言葉を使っているが、「受け入れられない」という表現の方が正しいかもしれない。


 あの作品は、私のコンプレックスをごりごりに刺激してくれる。見ていて苦痛なのだ。不出来な自分が正論でビンタされているような気がして、始終居心地が悪い。苦しい。そしてその映画を絶賛する声を見ると追いビンタをくらう。控えめに言って地獄である。


 なので私は自分を守るために「きらい」という感情で作品を拒絶する。



 同じように、作品を見て負のヒートアップをしている方は何かしらの苦痛を受けたのかもしれない。私のようにごりごりコンプレックスを刺激されたのかもしれないし、過去のトラウマや心の敏感な部分をえぐられたのかもしれない。


 しかしそれは制作側が意図したものではない。見る人を傷つけようと思って作ったわけではないのだ。こっちが勝手にダメージを負っているだけで、誰が悪いわけでもない。もし作者に言えることがあるとすれば「あなたは思いもよらない形でファンを失っていますがしょうがねえっす」だ。


 自衛するしかない。自分がなにに傷つくのかを理解することが大事だ。そして現在は「地雷」という大変便利な言葉が転がっている。苦手なものを地雷と認定し、見極め、うっかり地雷源をさまよって踏み抜く不幸を回避するのだ。私はこれからも気軽に母子奮闘ものを見ることはない。




 ◇まとめ


 ひとつの作品からいろんな感想が生まれるのはいいことだが、それで争いになってはもったいない。「相手の言い分は理解できんが、そういうこともあるか」と流せればこれ以上のことはないだろう。そのためには相手を知ることが大事だ。


 それ以上に大事なのは心の余裕なので最近ピリピリしていると感じる貴兄らは休息をとってほしい。6つのタイプなど忘れて今すぐヘッドスパの予約をしよう。



 ちなみにわたし自身は主人公応援型+客席型が半々だ。読書においてもその傾向は強い。そしてサメ映画に関してはひたり型が発動する。


 矛盾許せないマンである客席型と、別にいいじゃんマンのひたり型がまさかの共存を果たしているのだ。なんとも恐ろしいことだが、このチグハグさが実に人間らしくていいと思う。


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[良い点] 面白かったです! 私も複合型です。だいたい主人公憑依と考察と客席型ですが 細かいとこが気になって許せない!!という気持ちがある程度まで達するとひたり型になります。 でもこれはなんらかの忖度…
[良い点] 私は①〜⑤全部ですね。 観る作品によって見方が変わるので、あえて言えばどれとも言えないです(´・ω・`)
[一言]  面白いのはわかるんだけどきらい、な作品ってあります。  面白いんだけど二度と見たくない、とか。
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