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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゴスロリヤンキー喧嘩道

作者: エリザ・レッドラム

私の学校には最強のヤンキーが番を張っている。

名前は龍宮寺桜子、長い黒髪をツーテールにしてきっちり着込んだセーラー服がよく似合う影のように地味な女子生徒だ。

そんな彼女は、いくつかの伝説を持ってる。

その中で一番有名なのが「彼女が特攻服を着たが最後、敵は全滅される」という物だ。

こんな彼女が特攻服を?

私には想像がつかなかった。


四時限目の数学の授業が終わり購買にお昼を買いに行こうとしたとき、突然校門の方から爆音が飛び込んできた。

何事かと廊下の窓から外を見た時、改造バイクに乗ったヤンキーの群れが、校庭になだれ込んで来るのが見えた。

ヤンキーの一人が拡声器をを取り出すと機械で拡張された声で一人の女生徒の名を叫ぶ。

「龍宮寺ィー!!テメエのツラ二度と偉ぶれねェぐれーボコボコにすっから出てこいや!!」

周りのヤンキーたちも「ぶっ殺したらぁ!」とか「今なら全裸で土下座プレイで許してやんよー!」など聞くに堪えない怒声や卑猥な罵詈雑言が飛んでくる。


すっかり震え上がってしまった私の肩を誰かがそっと叩いた。

「ひ、ひぃっ!?」

「ねぇ、貴女。確か紅茶同好会の会長よね」

「ひゃ、ひゃい!」

カチコチになりながら振り向くと、そこにはおおよそ学校には似つかわしくない、奇抜で美しい黒いドレスワンピースを着て土足禁止の校内で分厚い底のブーツを履いた桜子さんが立っていた。

「紅茶を入れてほしいの。お願いできるかしら」

紅茶同好会、会員一名の名前だけの会の会長の私がなんで、今にも校舎になだれ込んできそうなヤンキーの群れに名指しされても優雅に笑む彼女に紅茶を入れなければならないのだろう。


「アールグレイにミルクと砂糖。特攻服を着終わる前に淹れて頂戴」

「え、は?」

「時間が無いの、あの有象無象は今にも校舎に入ってきそうだし。先生たちの牽制もいつまでもつか分からない。返事は?」

「は、はい!」


所変わって家庭科室、私はお湯を沸かしながらテキパキと準備をしていた。

そういえば、彼女は演劇部だったろうか?

でも、こんな時間に衣装を着込んでの練習なんて大変そうだな。

「あ、あの。特攻服は……」

「今小物を合わせているところよ」

「へ?」

そう言って桜子さんは黒レースで装飾されたサンバイザーの様なものを外すと不思議の国のアリスがつけて居そうなリボンカチューシャを選び「こっちのほうが良いわね」なんて家庭科室の姿見を前につぶやく。

「えーと、それってゴスロリですよね」

砂時計をひっくり返し抽出を始めて訪ねると、彼女は髪を解いて「そうよ」と笑んだ。

「特攻服は……」

「これが私の特攻服よ」

「……」

何か、生まれて初めて地動説を論理だてて説明されたような、ポカンとした気持ちになった。

このフリフリの甘くて真っ黒な洋服が特攻服!?

思わずミルクを入れたティーカップから紅茶を零しそうになった。


外でヤンキー集団がしびれを切らそうとしている中、桜子さんはヴィヴィアンウエストウッドのアーマーリングを両手に四つずつ着けた手で器用にティーカップをつまみ紅茶をたしなんでいた。

胸元には同じくヴィヴィアンのオーブ。

ゴスロリには詳しくない私だがお姉ちゃんが一時期ハマってたのでヴィヴィアンだけはなんとなくわかった。


「さて、ティータイムも終わったし。行かないといけないわね」

「あ、あの。失礼ですけど、逃げた方が」


「逃げないわ」


「えと、でも」

そんな喧嘩に似合わない服でどうやって勝利しようというのだろう……。

「特攻服は覚悟の証。女の子に生まれたなら咲くときは華やかに、散るときは美しく。そう思って私はゴスロリを特攻服に選んだの」

それに、意外と強いのよ。この服。そう言ってティーカップを置いた桜子さんは、ハート形の口紅の跡をカップに残して颯爽と戦場に向かった。


校庭に立った桜子さんはお嬢様のようにスカートをつまんでお辞儀をした後

「龍宮寺桜子、推して参る!」

と、良く通る声で宣言した。

「ザッケンナ、このアマ!!」

「トップク着て勝負しろや!!」

「メイド喫茶じゃねーんだよっぶぁっ!?」

桜子さんの鋭い右ストレートがメイド喫茶発言をしたヤンキーの顎に入った。

そして倒れたところを容赦なく厚底ブーツで踏みつけると

「よくもメイドと一緒にしたわね、私そういうのが一番嫌いなの」

と言って顔面をもう一度勢いよく踏みつけさらりとリーダー格らしき特攻服のヤンキーに向き合った。

「ランチの時間が惜しいの。タイマンにしましょう?」

だが、それの返事は

「フクロにしちまえ!!」

と言う号令だった。


雄叫びを上げ襲い掛かるヤンキー達に桜子さんはため息をつくとファイティングポーズをとった。

「有象無象の物量で勝とうとは、可愛そうな方達ね!」

ヤンキー達の真ん中に黒い大輪の薔薇が咲いたのを私は見た。

薔薇の正体はふわりと膨らんでいたスカートが翻った残像だった。

ダンスホールで踊る令嬢のように円を描きながら、メリケンサックのごとく武装したヴィヴィアンのシルバーが煌めきとともに血の花を咲かす。

ヤンキー達は優雅かつ残酷なダンスを終わらせようとドレスのリボンやレース、花飾りを掴もうとするが、伸ばした腕は誘う様に引かれ体制を崩し、厚底ブーツの容赦ない足技で、ある者は急所を蹴られ、ある者は足払いからのヴィヴィアンストレートの餌食に、またある者は別の者に向かって投げ飛ばされた。


「綺麗……」

思わず口からそんな言葉が零れた。

しかしヤンキー達は汚いやり方をだんだんと見せ始めた。

鉄パイプを振りかざし、ナイフを構え、石を投げ付ける者すらいた。

だがしかし、ヴィヴィアンで武装した拳に阻まれたり、いつの間に外したのだろうオーブのネックレスチェーンで絡めとられたり、トップのオーブで弾かれたりと誰一人彼女を傷つける事は出来なかった。

やがて死屍累々の中経っているのは三人。

ヤンキーのリーダーと二番手らしきモヒカンの男、そして残酷優美な黒薔薇の桜子さんだ。


モヒカンの男は映画でしか見ないような長ドスを手に桜子さんに襲い掛かった。

長ドスの刃が凶暴に襲い掛かるたびに桜子さんはそれをヴィヴィアンのオーブで弾き返す。

私はそこに怨敵を成敗せんとする武将の様な誇り高い背中を見た。

しかし、パキン! と音がしてネックレスのチェーンが千切れた。

バックステップを踏もうとする桜子さんの下ろしたロングの黒髪をモヒカンが掴もうとする。

「穢れた手で乙女の命に触れないで!」

その瞬間、桜子さんに隙が生まれてしまった。

長ドスの切っ先が桜子さんの腹部を刺した。

「桜子さんっ―ーーー!!」

桜子さんが、死んじゃう!!

私は無我夢中で桜子さんの選別していた小物を適当にひっ掴み家庭科室の窓から飛び出した。

ずしりとした重みの扇子とシルバーの十字架ネックレス。

こんなもので、喧嘩なんて滅多にしない私が、しかも相手はヤンキー。

無理だ、と思ったのになぜか体は動いていた。

桜子さんは、嗤っていた。

「コルセットのボーンって結構丈夫なのよ」

勝機が見えた。

「投げて寄こして!」

その時、初めて体が動いた理由が分かった。

桜子さんは負けない。

何を根拠に言っているのか分からないが、そんな盤石な思いが有ったからだ。


昼の光に照らされて、黒い薔薇の彫刻が施された扇子と白銀の薔薇の十字架ネックレスが舞い、桜子さんの手に収まった。

桜子さんはおそらく金属製であろう漆黒の扇子で長ドスを叩き折った。

モヒカンが怯んだ隙に桜子さんの強烈な回し蹴りが炸裂し、ヤンキーリーダー共々モヒカンを吹っ飛ばした。

桜子さんは回し蹴りで乱れたスカートを整えると、泡を食らって気絶してるモヒカンの下から這い出てきたヤンキーリーダーに十字架の尖った尖端を先端を剣のように突き付けた。


「チェックメイト」

桜子さんが高らかに宣言すると、校舎からどよめきとともに歓声が上がった。

ヤンキーリーダーは足掻こうとしたが、眼球に十字架の切っ先を寸止めで突き付けられ、声にならない音を口から漏らし気絶した。


桜子さんは「コルセットに傷が出来ちゃったわ」と言うと踵を返して私の横を通り過ぎた。

私はすれ違いざまに「ありがとう、借りは必ず返すわ」と桜子さんに約束された。

五限目のチャイムが鳴り、パトカーがサイレンを鳴らして到着すると、気が抜けたのか私のお腹がグぅ~と鳴いた。


私の学校には最強のヤンキーが番を張っている。

華麗な衣装を纏い戦う最強の女ヤンキーが。


ー END ー

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