第63話 〜深雪side〜 永遠の別れ
「あいちゃん……あいちゃん……!
真理愛が……真理愛がね……!」
家に着いてほどなく、まりちゃんのスマホから着信がありました。
着信口の声は、まりちゃんではありませんでした。
震えるような、泣きじゃくるような女性の声、まりちゃんのお母さんでした。
「真理愛がね……交通事故にあったの……。
それで……警察署に来たら、息をしていないの。
真理愛が……死んじゃったの!」
言葉が崩れ落ちるように、スマホの向こうで嗚咽が続きました。
耳の奥が遠くなっていく。
呼吸の仕方がわからなくなる。
暗くなった冬の道で、まりちゃんは車にはねられたのだといいます。
高齢の男性が運転する車。
酒に酔い、「真っ黒じゃわかんねぇよ」と口にしたといいます。
その言葉が胸の奥で鈍く響いきました。
まりちゃんが身につけていた、あの黒のワンピースが頭に浮かびました。
あんなに綺麗だったのに。
私は母と一緒に警察署へ駆けつけました。
死体安置室のドアを開けると、白い光の下、白い布に包まれた小さな人影がありました。
まりちゃんでした。
その傍らで、崩れ落ちるように泣き続けるまりちゃんのお母さんの姿がありました。
私たちは立ち尽くしました。
まりちゃんのお母さんは、しばらくしてわたしたちに気づくと、私のお母さんの胸にすがりつき、
「なんで……なんでうちの真理愛が……。
なんで死ななきゃいけないの……真理愛……真理愛ぁ……!」
と、子を呼ぶ声が部屋いっぱいにこだましました。
お母さんは何も言わず、その声をそのまま抱きしめました。
二人の肩が、涙で濡れながらゆっくりと震えていました。
私は静かにまりちゃんの横へ行き、布を胸のあたりまで下ろしました。
そこには、カフェエリで別れたときのままの顔がありました。
穏やかで、どこか誇らしげで。まるで眠っているみたいでした。
傷ひとつなく、血の気も引いていません。
ただ、頬に触れた指先が冷たく、時間が確かに止まってしまったことを教えてくれました。
「真理愛、綺麗でしょ……。
死んでいるなんて信じられないでしょ……。
身体にも傷なんて、ほとんどないのよ……」
まりちゃんのお母さんの声が震えながら届きました。
私はもう一度、シーツを少しだけ下げました。
そのとき、まりちゃんの左腕がふっと重力に負けて落ちました。
その瞬間、何かがわたしの中で崩れ落ちました。
「えっ……嘘でしょ……。
まりちゃん……起きてよ……ねぇ、起きてよ……!
まりちゃん!まりちゃん!!」
肩を掴んで揺さぶっても、まりちゃんは微動だにしませんでした。
「まりちゃん!
お願い!
まりちゃん!!」
喉が焼けるように痛かった。
叫びながらも、私の声が空気に溶けていくのがわかりました。
まりちゃんのお母さんは、泣きながらその光景を見つめていました。
そして、私のお母さんがそっと背後から私を抱きしめました。
その温もりで、私はようやく自分がまだ生きていることを知りました。
私の人生で、心が壊れたのはあのときが初めてで、最後でした。
まりちゃんは、あの日の奇跡を胸に抱いたまま、何の前触れもなく、私の世界からいなくなってしまいました。
永遠のさよならを、残酷なほど静かに残して。




