表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/63

第62話 ~深雪side~ 奇跡

 「あいちゃん!見せたいものがあるの!

 奇跡が起きたのよ!これからカフェエリで待ち合わせね!」

 「うん、いいよ。どうしたの?」

 「うふふ……内緒。きっとびっくりすると思うの」

 「なんだろう。楽しみ!」

 「早く来てね!約束だよ!」


 一年生のクリスマスイブの夕暮れ、まりちゃんはいつも以上に弾む声で電話をかけてきました。期待と喜びが、スマホ越しに伝わってきます。


 カフェエリに着くと、自然と足はいつものテーブルへ向かいます。ガラス越しに外の光が柔らかく差し込む席に、見慣れたはずの黒髪が違う輝きを放っていました。


 「まり……ちゃん……?」

 戸惑いの声をかけると、艶やかに伸びた黒髪を指でかき上げながら、彼女は振り向きました。


 「そうよ、まりよ」

 「まりちゃん!すごい!ストレートパーマをかけたの?」

 「そうなの!遠くまで行って、超縮毛矯正ができる美容室でやってもらったの。すごく綺麗でしょ?トリートメント代も高かったけど、ツヤツヤよ!」


 まりちゃんは、普段は見せない体のラインを美しく描く黒のタイトワンピースに、華奢な金色のイヤリング、真紅のリップ。まるで夕日の中で輝く一瞬の光のように、美しかったです。


 「まあ、座って座って」

 店内側のガラスに面した席に促され、私はいつもとは逆側に座りました。


 「どう、奇跡でしょ!」

 「うん、とても綺麗!いつものちりちりのまりちゃんも可愛いけど、今日はまったく違う輝きがある」

 「そうなの……」

 まりちゃんは髪を撫でながら、少し照れた笑みを浮かべた。

 「あたしも半信半疑だったんだけど、やってみたらこんなに艶やかに真っ直ぐになって。早くあいちゃんに見てもらいたくて、せっかくだからママのワンピースとイヤリングを借りて、メイクまでして……びっくりさせたくて」


 「触ってもいい?」

 「もちろん。よくてよ」

 イヤリングを揺らしながら、頭を私の方に近づけてくれます。サラサラの髪が指先をすり抜ける感触は、まるで柔らかな光を掴むようでした。


 「すごいね!お母さんもびっくりしたんじゃない?」

 「まだお母さんは仕事で見てないの。でも、きっと驚くと思う。どんな言葉が返ってくるか楽しみで……」

 まりちゃんの瞳は、宝石のようにキラキラと輝いていました。

 「それに、カフェエリに向かう道すがらの人たちの目線も、全然気にならなかったの。むしろ、二度見されちゃう感じで。それも今までとは違う、嫌じゃない目線……うまく言えないけど、とにかく、今までとは全然違うの」


 喜びに満ちてはしゃぐまりちゃんを見て、私の胸も温かくなりました。


 アフロのまりちゃんも大好きだったし、どんな姿でも魅力的でした。でも、今日の彼女の輝きは、喜びに胸を躍らせるその笑顔と、ありのままの自信が作り出す魔法のようでした。


 「よかったね、まりちゃん!」

 「ありがとう、あいちゃん……」

 手を握り合うと、まりちゃんの瞳から一筋の涙がこぼれました。


 たかが髪の毛、かもしれません。けれど、まりちゃんにとって、それは人生を少しだけ変える奇跡だったのだと思います。


 その後、一時間ほど私たちは、まりちゃんの新しい髪について、笑いながら話し続けました。


 「もう外も暗くなっちゃったね。遅くまでごめんね」

 「ううん、全然」

 「これからお母さんに見てもらうのが楽しみだね!」

 「うん、どんな反応か教えるね」

 「うん、楽しみにしてる。今日は一番に見せてくれてありがとう」

 「こちらこそ、ありがとう」


 店を出て、私たちは手を振り合い別れました。

 まりちゃんは振り返るたびに、眩しい笑顔で両手を大きく振ってくれました。


 「また明日ね!」

 「うん、また明日!」


 それが、私たちの最後の会話になるとは、そのときはまだ知りませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ