第61話 〜深雪side〜 居場所②
「でも、あんたって、いつも白いわねぇ」
いつものカフェ、私たちの間ではすっかり「カフェエリ」と呼ばれる場所。
いつものテーブルに座り、まりちゃんは厨房が見える窓側に、私は外が見える店内側に腰を下ろします。
彼女は人の視線が気になるのだといいます。だから窓側に座ります。
店内を見ながら、外の人の目をやり過ごすために。
「まりちゃんだって黒いじゃん」
彼女にとって『黒い』は、私以外の人に言われると嫌な言葉らしいです。
でも私にだけは、こうして許してくれる。面白がってくれている。
だから、私も「白いわねぇ」と言われても、嫌ではありません。むしろ、嬉しくすらありました。
「外側が見えるに座って、人の目は気にならないの?」
まりちゃんがカプチーノの泡を見つめながら、興味深そうに尋ねます。
「うーん……あんまり見えないし、まりちゃんの髪の毛が広がっているおかげで、私の視界にはまりちゃんしか入らないの。だから、視線を感じることはほとんどないかな。それに、お母さんがずっと『アルビノであることを負い目に感じず生きなさい』って言ってくれたからかもしれない」
まりちゃんはカップの縁に口を寄せ、ふうっと息を吐く。
「あたしはあんまり外に出られなかったなぁ。お母さんは『シングルマザーで黒人ハーフの子どもがいる』ことを、恥ずかしいと思っている感じすらあったし」
その言葉に、私は胸の奥から可哀想だと思いました。
明るく話そうとする彼女の姿も、同じくらい胸を打ちました。
「中学の時ね、とっても成績が良くて、学年代表として交換留学生でアメリカに行ったこともあるの」
私はストローでパパイヤジュースを吸いながら、まりちゃんの黒い瞳を見つめます。
「そこで、一緒にホームステイしたのが、『姫カットに切れ長の目をした日本人形みたいな子』だったの。ホストファミリーはその子を特に可愛がって、あたしはなんだか蔑ろにされた感じがしたの。毎日、『早く終わればいいのに』って思ってた。
日本では黒人ハーフとしてアウェー感を感じ、アメリカでは片言の英語しか話せない日本人ハーフとしてアウェー感を感じて、どこにも居場所がないって思ったんだ」
パパイヤジュースの中の氷がカランと音を立てました。
その音も、二人の沈黙の中にやわらかく溶けていきました。
「成績は良かったから、どこの高校でも行けたけど、居場所がないことはわかっていた。だから、この高校を選んだんだ。卒業したら、語学系の大学に進んで、本の翻訳の仕事をしたい。そうすれば、人と関わらなくても生きていけるでしょ」
私は頷くことも否定することもせず、ただその言葉を胸で受け止めました。
カップの中のカプチーノをスプーンでくるくる混ぜながら、まりちゃんは小さな声で言いました。
「この泡のようなあいちゃんと、エスプレッソのようなあたしが混ざり合って、ちょうどいい色になれたら、何か変わるかな」
口元は笑っているのに、真っ黒な瞳の奥には、静かに深い悲しみが宿っていました。




