表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/63

第50話 ~栞side~ いつもの席

 てっちゃんにふられた後も、わたしはこの『Le cafe du cerf(ル カフェ ドュ サーフ)』、鹿野さんのお店にときどき来ていた。

 このカフェではわたしの学校のあるであろう日、一番奥の席を『予約席』の札を置いてわたし用にとっておいてくれる。

 何度も

 「いいんですよ。

 毎回来れるかわからないし……」

 と伝えたが

 「いいんだよ。

 勝手にやっていることだから」

 と続けてくれている。

 そんなお店に佐藤くんを連れていった。


 いつもの席につくと鹿野さんは佐藤くんの方を見ずに、わたしだけに向けた笑顔で

 「いつものでいい?

 どうだった中間テストは?」

 と話しかけてくれた。

 「はい。

 いつもの美味しいブレンドコーヒーで。

 テストは自分なりに頑張れた感じです」

 コーヒー代は10枚つづりのチケットを、半額だけど買わせてもらえるようになっていた。

 「そっかぁ、そいつはえらい」

 佐藤くんの存在を感じていないように鹿野さんが続ける。

 「じゃあ、シェフに頑張ったで賞で何か作ってもらうよ」

 「そんなそんな。

 大丈夫です」

 いまだにこうやっていろいろと理由をつけて、お店の品をサービスしてくれる。

 「シェフ!

 栞ちゃん、テスト頑張ったんだってさ!

 何か作ってあげて!」

 厨房からこちらをのぞいていたシェフが無言で頷く。

 「ちょっと待っててね」

 そして、表情から笑みが消え

 「で、君は何を頼むの?」

 鹿野さんの一変したいい方にびっくりした佐藤くんは

 「ぼ、ぼくはオレンジジュースで……」

 とおどおどした様子で答えた。


 しばらく無言で待っていると、鹿野さんがわたしにブラックコーヒーを、佐藤くんにオレンジジュースを運んできてくれた。


 「ありがとうございます」

 「あ、ありがとう……、ご、ございます……」


 いつもの癖で、砂糖もミルクも入れていないコーヒーにスプーンを入れ、くるくるとかき混ぜながら、わたしは佐藤くんに話を聞いた。

 「で、『佐藤徹人』くんていう名前以外、わたしは何も知らないんだけど?」

 もじもじしながら、ゆっくりと佐藤くんは答える。

 「あの……。

 僕も……、先輩のこと……、何も知りません……」

 「……。

 じゃあ、なんで告白したの?」


 ……。


 「綺麗だったからです……。

 理想の女性だったからです……。

 ぼくには好きなアニメがあって、そのアニメに出てくるヒロインをもっと綺麗にした感じの人がなぜか学校にいて。

 それで……」

 「それで?」

 「それで話しかけなきゃって、今声をかけなきゃいつかけるんだって思って、一生懸命勇気を出して声を掛けたら、告白になっていたんです。

 ぼくも告白することになるなんて思ってもいませんでした」

 「……」

 「ぼくは女の人に話しかけたこともないし、友達もいません。

 でもそのときは『声をかけなきゃ一生後悔する』って心から思えたんです。

 多分、人生で一番の勇気が出たんです」


 ……。


 真顔で聞いていたわたしは

 「なにそれ。

 面白い!」

 と佐藤くんに満面の笑みで返した。


 「……。

 すみません……。

 本当にすみませんでした……」

 「謝ることじゃないでしょ。

 中間テスト、すごかったじゃない」

 「英語は6位でした……。

 約束は守れませんでした……」

 「筋トレは?」

 「それはちゃんと100回ずつできるようになりました」

 ワイシャツからのぞく前腕が、嘘じゃないことを証明しているように感じた。

 「じゃあ、すごいじゃん」

 「それは全部、わたしのため?」

 「そう……。

 です……。

 はい……」

 佐藤くんは下を向いて答えた。


 「『綺麗』っていってくれて、ありがとう。

 そんなに頑張ってくれて、ありがとう。

 嬉しいよ」

 わたしは両肘をテーブルにおき、両掌で頬杖をつきながら続ける。

 「わたしのことも話さなくちゃね。

 わたしは『さがら しおり』、『相手』のあい、『楽しい』のらく、本に挟む『栞』のしおり。

 この春から転校してきて、まだ少ししかたっていないんだ」

 「そう……。

 なん……。

 ですか……」


 ……。


 「あんまり興味なさそうだね」

 「いやいやいや!そんなことないです!」

 佐藤くんは首をブンブンと横にふり、両掌も何度もふる。

 そして、さっきより身体を小さくして話しだす。

 「なんか……。

 今の状態が、全然現実味がなくて……。

 さっき話したように、『憧れの存在』を具現化したような人が目の前にいて……。

 それもこんな洒落たカフェでふたりきりでいて……。

 それもそれもぼくに話してくれていて……。

 なんか、夢のようなんです」

 「ふ~ん、そうなんだ。

 わたしってそんなに綺麗?」

 少しおどけていってみた。

 すると、佐藤くんは机をたたきながら立ち上がっていった。

 「綺麗ですよ!

 最初見たとき、びっくりしましたもん。

 アニメじゃないんだって。

 こんな人、現実にいるんだって!」

 美人っていわれたことはあったけど、こんなに面と向かって人に『綺麗』って連呼されることは初めてだった。

 「やっぱり……、気持ち悪いですよね……。

 ……。

 自分でもそう思います。

 こんなオタクな男が、相楽先輩みたいな綺麗な人にいきなり告白するなんて……」

 一口も飲んでいないオレンジジュースのコップと同じように、佐藤くんも顔に汗をかいていた。

 「僕は勉強はできないし、運動もだめで……。

 いいとこなんて、ひとつもないんです。

 そんな男に告白されて、いい迷惑ですよね……」

 わたしは両頬にあてていた手を、テーブルの上で腕を組むように下げた。

 「そんなことないよ。

 それは、最初はびっくりしたけど。

 三回目の告白のときには、まだまだ転校したてで緊張していた私を笑顔にしてくれたし、今日なんか貼り出されたテスト結果を見て感心しちゃったんだ。

 こんなにもわたしのことを思って、こんなにもわたしのために努力してくれて、本当にありがとうね」

 「そんな!

 そんな!

 ぼくが相楽先輩の迷惑を考えずに、勝手にしてしまったことなんです。

 だから。

 だから……。

 すみませんでした」

 立ったまま話を聞いていた佐藤くんは、強く目をつぶり、気をつけをして頭を下げた。

 そんな佐藤くんに対してはわたしはいった。

 「ねえ、さっきもいった通り『彼女』にはなれないけど、『友達』になろ。

 そしてたまに、このカフェで会おう」

 その瞬間だった。


 ガシャン!!


 音のした方を向いてみると、鹿野さんがわたしに持ってきてくれたのであろうパンケーキののった銀のお盆を落とし、あんぐりと口を開け、わたし達をみていた。

 そして、その奥のキッチンでシェフが目を真ん丸と見開いて驚愕の表情をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ