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第42話 ~栞side~ 気づき

 てっちゃんからふられた直後のクリスマス・イブの前日、私は久しぶりに文とお風呂に入った。

 それは珍しく、文からの誘いでだった。


 お互い体を洗い、いつも通りわたしが文の髪を洗った後、バスタブの中で向かい合う。

 文は膝を抱えながら真っすぐにわたしをみる。

 「……お姉ちゃん」

 真剣な表情で文が言う。

 「なあんだい、かわいい文ちゃん!」

 明るく、努めて明るく返事をする。

 「あのね、お姉ちゃん。

 ずっといおうと思っていたけど……。

 ……。

 何かあったでしょう」


 ……。


 二人の間に沈黙がしばらく流れ、両手を頬にあてて泣くふりをしながら

 「そうなの!

 彼氏にふられちゃったの!

 ひどいと思わない!

 お姉ちゃん、こんなに綺麗なのに!」


 ……。


 お道化ていったわたしに、文がさらに真剣な眼差しでいう。

 「それもあるのかもしれないけど、他にもっと何かあるでしょう」


 ……。


 わたしは泣くふりをやめた。

 そして少しの間をおいて、本当に涙が溢れてきた。

 「どうしたの、お姉ちゃん。

 本当のことをいって。

 文には嘘はつかないで」

 文はわたしのことをよくわかっている。

 そして、わたしの噓を見抜く。


 ……。


 わたしが少し落ち着くのを待って

 「ずっとずっとお姉ちゃんがおかしいと思っていたよ。

 おばあちゃんやパパに聞いても何も教えてくれないし、ママは何も気づいていないみたいだけど……」

 と少し早口でいった。

 特別進学コースから進学コースへ『ドロップアウト』したことを、おばあちゃんとパパには打ち明けていた。

 でも、文とママにはいえなかった。

 文には傷つけたくなくて、ママには傷つきたくなくて……。


 「お姉ちゃんが悩んでいるのは感じていたよ。

 でも、どう声をかけてあげればお姉ちゃんの助けになるかわからなくて……。

 いつか話してくれるんじゃないかと思っていたけど、全然話してくれなくて……」


 ……。


 どんどん涙が溢れてきた。


 「お姉ちゃんは私を信じていないの?

 そんなに文はお姉ちゃんに信じられていないの?」


 ……。


 だめだ、涙が止まらない。

 それはいよいよ嗚咽を含んだものになった。

 「だって……。

 だって…………。

 ……。

 『いいお姉ちゃん』でいたかったんだもん!

 文の『自慢のお姉ちゃん』でいたかったんだもん!!」

 号泣しながら私はいった。


 そんなわたしを見ても驚かず、妹は、文はどこまでも優しく

 「どんなお姉ちゃんでも、私には『自慢のお姉ちゃん』だよ。

 綺麗で文のことを大切に考えてくれる、とってもとっても『自慢のお姉ちゃん』だよ。

 だからいって。

 お姉ちゃんの悩みをちゃんと打ち明けて」

 と問いかけてくれた。


 そうしてそこからわたしは文にゆっくり、そして言葉を選ばずに『ドロップアウト』したことを伝えた。

 それから、ママに嫌われたくなくて、そのことを伝えられていないこともありのままに話した。


 「そうだったんだね…。

 ありがとう、話してくれて。

 ……。

 うん、わかった。

 お風呂を出たら、ママに伝えにいこう。

 文も一緒に行くから、ちゃんと伝えよう」


 その時、改めて思った。

 わたしのいもうとはどこまでも姉思いの、そしてどこまでも可愛い、わたしの大切な大切な文なのだと。

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