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「よーし、そろそろ素材のヒントになるものを調べるぞー。ってことで二人とも起立!」
いい案を出してくれた二人には負けられない。
私はじっとしてられなくなり、イスから立ち上がった。
「ちょい待ち。ノノア、着席」
そしたらレイテが私に着席を命じた。
二人とも立ち上がろうとしないので、しぶしぶ私は着席する。
「どないして調べるんかアテはあるんか?」
「そんなの簡単だよ。図鑑から調べる!」
私は胸の前でこぶしを握った。
「まあ、図鑑やったらレシピ本の素材も載っとるかもしれんな」
「そうですね。図鑑でしたら正確な情報がわかりやすくまとめられていますし、素材についても調べやすいかと。……ね、ノノアさん」
人差し指をピンと伸ばして、ミヌエットは私にウインクをした。
「そうそう。図鑑だったら調べやすいかなーって思ってさ。あ、でもたしか図鑑っていくつか種類あるよね」
「アイテム図鑑、植物図鑑、魔物図鑑、など色々とありますよ」
「じゃあ私はアイテム図鑑調べるから、レイテは植物図鑑、ミヌエットは魔物図鑑を調べて!」
「せやな。それぞれで図鑑調べたほうが効率いいし、そうしよか」
「ではそれぞれ図鑑を本棚から探して調べましょうか」
「よーし、それで決定! じゃあ二人とも起立!」
私はイスから立ち上がる。遅れて二人も今度こそ立ち上がった。
さっそく図鑑が並べられている本棚をそれぞれ探す。私はアイテム図鑑だ。
「えーっと、アイテム図鑑、アイテム図鑑……。あ、あった」
本棚の一番上の段にアイテム図鑑があった。
私の身長だと背伸びしても届かない高さにある。でもジャンプしたら届きそうだ。
私はいったん本棚から距離を置いた。
そして屈伸を何度かして……。
ジャンプ!
アイテム図鑑、確保です!
「っと、うわっ」
ああっ、しまった!
床に着地した衝撃で掴んだアイテム図鑑が滑ってしまった。
図鑑が私の手から滑り落ち、下に落ちていく。
「いったーい!」
落ちた図鑑が、私のつま先に当たった。
私はつま先をおさえて必死に悶える。
「ほーら、言わんこっちゃない」
私の隣、植物図鑑がある棚の前にいたレイテが私を冷めた目で見てきた。その奥ではミヌエットが目をぱちくりして驚いているのが見える。
「ううぅ……」
「ホンマにノノアはアホやなあ」
「……アホじゃない」
「ならバカやなあ」
「バカじゃない」
「天才やなあ」
「うん」
「……ドジの」
「ドジの天才じゃない」
「ふふふっ」
あ。ミヌエットが笑った。
☆☆☆
図鑑を探し出した私たちは、レシピ本と図鑑を交互に見比べながら、黙々と素材のヒントを調べはじめた。……が。
「あーん。見つからないよー」
アイテム図鑑を調べだして約30分。
私は図鑑を閉じてテーブルに突っ伏した。
素材の名前や挿絵など、ヒントになるものがどこにも図鑑に載っていなかったのだ。何度も見直したけどついに見つけきれなかった。
「ねー、二人はどう?」
「ウチも見つからんなあ」
「私もです」
そう言うと二人とも図鑑に目を通しながら首を横に振った。
「やっぱりこんな素材は存在しないんじゃないかなあ。この素材はおじいちゃんの妄想だったんだよ、きっと。ほら、お酒を飲みすぎて妄想と現実がごっちゃになってわけわかんなくなっちゃってたんだよ。それでこんな妄想の素材を書き記しちゃった。そうに違いないよ、うん」
なんかもうめんどくさくなった私は適当に話す。
「図鑑には何かしら載っとると思ったんやけどなあ」
「こうも成果が得られないとは思いませんでした」
「だよねだよねー」
完全にやる気をなくした私はテーブルにべたーっと上半身をひっつける。
テーブルがひんやりとしてて気持ちいい。ほっぺたが冷やされる。ついでに考えすぎで熱くなったおでこも冷やそっと。
「でも妄想とはちゃうと思うで。部屋にラッセンの根っこはあったんやろ? そんならやっぱ素材は存在すると思うねん」
「まあたしかにそうなんだけどさー。でも調べても図鑑に素材のことが何も載ってなかったんだよ。普通に考えて図鑑だったら載ってるはずでしょ。なんで載ってないのかわかんないよ」
私は投げやりになりながら話す。
だって図鑑のくせに一般的な素材からちょっと珍しい素材までしか載ってないのだ。
図鑑だったらレシピ本に載ってるくらいの、この世に存在するのかどうかもわからないような素材も載せておいてほしい、って私は声を大にして言いたい!
……ん?
この世に存在するかどうかもわからないような素材?
あ、いま、急になんか私の頭の中に降りてきた。
なんかわかったかもしれない。
私は寝そべっていた上半身を起こした。そして二人を見る。
「わかったかも」
「なにか思いつかれたんです?」
「うん。たぶんだけど、このレシピ本の素材は珍しすぎるんだよ。だからいま私たちが調べているような、一般的な図鑑には載っていないんだと思う」
考えを整理しながら、ゆっくりと伝える。
「つまり、もっと珍しいものが載っていそうなマニアックな図鑑、もしくはそれに似たものを調べてみるといいかもしれない」
「んなアホな」
「でももうそれくらいしか思いつかないよ」
きっとこれだ。これしかない。
「ちょっと別の本探してくるね」
私はイスから立ち上がり、再び本棚に向かった。
珍しそうなもの、珍しそうなもの……。
とにかく本棚の背表紙を見て、ピンとくるものを手に取ろう。
『超絶おいしい珍味料理一覧』
これは気になるけどピンとこなかったからたぶん違う。あと今選ぶようなものじゃない。
『魔物一匹珍道中』
これは面白そうだけどほぼほぼ関係ないと思う。
『伝説級の不思議な珍しいもの集』
背表紙のタイトルを見た瞬間、ピンときた。
これだ、これにしよう。
私は『伝説級の不思議な珍しいもの集』を掴み、テーブルに戻る。そしてイスに座り表紙を開いた。
◇
伝説の白き巨龍、聖龍がキズを癒すために飲んだとされる水、聖龍水の神秘--5ページ
◇
表紙を開いてすぐだった。
目次に素材、聖龍水の名前が載っていた。
胸の鼓動が速くなる。
本当に、本当に、本当に、あった。あったんだ。
「あ、あああああ、あったー!」
ついに見つけた。素材の手がかりを。