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 村の中心部から少し西側に行ったところにある、村のシンボルのひとつとなっている()()()()な噴水広場では、今日もせっせと噴水から水が噴き出ていた。

 近くの小川にある水車も、いつものようにぐるぐると回っている。


 人はまばらだ。

 クワを背負ったおじさんが畑の方面へ歩いて行っていて、おばさんたちは立ち話に花を咲かせている。

 噴水の前のベンチには仲良く座っているカップルと、小鳥にパンくずを分け与えているおじいさん。

 そして図書館へと向かう私たち。


 ……やっぱり平凡だなあ。


 図書館は噴水広場がある通りを曲がったところにある。

 みんなで雑談しつつ村の様子を眺めながら歩いてたら、すぐに着いた。


「レイテ。図書館の中では静かに、だよ」

「そんくらいわかっとるわ。ノノアこそドジって本落として『足いったーい!』みたいなことせんといてな」

「もうそんなことしませんー」

「……もう?」

「ア、イヤ、ナンデモナイヨー」

「あやしい……」


 ジト目でレイテが私のことを見てくる。


「……ふふっ」


 あ。私たちのやり取りを見ていたミヌエットが笑った。


「ウケたみたいやな」

「だね」

「……うん。だって、面白いんだもの。ふふっ」


 口もとに手を当ててくすくすとミヌエットは笑っている。ミヌエットは笑いだしたらなかなか止まらないんだよなあ。


「ミヌエット。いまから図書館入るから、笑うのは気合いで止めてね」

「う、うん……」


 すーはーすーはー、と、ミヌエットが胸に手を当てて数回大きく息を吸った。


「ふぅ……。落ち着きました」

「よーし、それじゃ入るでー」


 三人揃って図書館に足を踏み入れた。


 図書館は私たちには場違いなほどに静かだった。

 中では数人の人がイスに座って黙々と本に目を通していた。

 空気がピンと張り詰めていて、本の匂いが漂ってくる。


 久しぶりに図書館に来たけど、やっぱりこの雰囲気には慣れそうにないなあ。


「あ、あそこ座ろ」


 三人が座れるイスを私は指さす。

 四角いテーブルを囲むようにして、私たちはイスに座った。


「ではさっそくですが、こちらをご覧くださいませ」


 私はバッグからレシピ本を取り出し、テーブルに置いた。


「なんや、めっちゃ古い本やなあ」

「本の外装がボロボロです」

「そうなの、古くてボロボロでね。あ、中もご覧ください」


 表紙を開く。

 私の対面にいるレイテとミヌエットはテーブルに身を乗り出し、レシピ本に顔を覗き込ませた。


「お、おおー。……お?」

「ふむ、これは……。たしかに仰られていたとおり、レシピのようですけれど……」


 二人とも口ごもってしまった。


「よくわかんないよね、これ。実はこの本、おじいちゃんの部屋で見つけたんだけどさ」

「おじいちゃんって、この前亡くなったあのエロいおじいさんのことか?」

「そうそう。あのエロいおじいさんのことなんだけど」


 と言っておじいちゃんとの思い出などを二人に話す。


 そして私が今朝、おじいちゃんの部屋の片付けをしていたときに偶然このレシピ本を見つけたこと、レシピは見たこともない素材ばかりで作ったとしても何ができあがるのかわからないこと、など疑問に思ったことを簡単に二人に説明した。


「ふーん。不思議なレシピ本やなあ」

「私もこんな素材、見たことも聞いたこともありません」


 二人はまじまじとレシピ本の11ページを見ている。


「だよねー。だから気味が悪くってさ。ってことで、図書館で何か素材のことを調べられないかなーって思って」

「なるほどな。てか、ひとつええか?」

「ん?」

「レシピその1はあらへんの?」

「……レシピその1?」


 レイテが「ほら」と言ってレシピ本の表紙を私に見せてきた。


「これはレシピその2やろ? やったらレシピその1もあるはずやろ?」

「あ、たしかに」


 レシピの内容ばかりに気を取られていて、表紙のタイトルの番号は気にしてすらいなかった。


「部屋にその1はなかったん?」

「部屋はまだ整理してる途中だから見つけきれてないのかも……。探せばあるかもしれない」

「そんなら、その1が見つかったら疑問がなんか解決するかもしれんな」


 レイテはそう言うと親指をぐっと上げて白い歯を見せた。


 そして続けてミヌエットが手を上にピンと挙げた。


「あの、私からもいいでしょうか」

「もちろん。なんか気づいたことでもあった?」

「はい。ノノアさんはお家で、おじい様が物はおろか料理すら作られていた姿を一度も見たことがない、と仰っていましたよね。となると、一体どこでおじい様は物を作られていたんでしょうか」


 そう。これは私も引っかかっていた。

 おじいちゃんはどこで物を作っていたのか。素材は集めていたんだから、きっとどこかで作っていたはずだ。


「それやけどな、おじいさんが何か作っとったんなら、作ったものをどっかに保管しとるんやないか? それか作ったものは売っ払っとるか。いや、作ったものを自分で使用した可能性もあるな。.....うーん、なんかそのへんについては知らんの?」

「作ったものを保管できるような場所は、部屋以外にはないかなあ。自分で使用してたかどうかもわからない。売ったかどうかについては、村の道具屋とかで聞けばわかるかもしれない、かな」

「なるほどなあ」


 そして考えを巡らせはじめたのか、レイテは(あご)に手を置いてうつむいた。


 ミヌエットもいつになく真剣な目をしている。

 普段あまり見ない顔つきだなあと思いながら私がミヌエットを眺めていたら、ミヌエットはゆっくりと声を発した。


「実はどなたかに協力してもらって、そのどなたかのお家で物を作らせてもらって、作った物もそのお家に置かせてもらっていた、というのも考えられるかと。それかどこかに隠れ家のような場所があって、そこで物作りをされていたんじゃないでしょうか。それでしたらその隠れ家に作った物も置けますし」


 なるほど。誰かの家で作っていた可能性もあるのか。

 それに隠れ家、か。

 そんなこと想像もしなかった。


「村での聞き込みが必要かもしれないね」

「そうですね。一度、情報の整理と部屋の整理をきちんとして、それから村のみなさんに聞いてみるとよさそうですね」

「うん。ありがとうね、ミヌエット。てか、私が考えもつかなかったことをこんなにたくさん考えてくれるなんて、二人ともすごいというか、なんというか……。嬉しい……」


 私がひまつぶしのついでに調べようと思ってただけなのに、こんなにも真剣に考えて、取り組んでくれて。ありがたいなあ。


「嬉しいって言われるとなんか照れるな。まあ、思っとったよりも謎が多かったもんやから、つい真面目に考えてもうた」

「私もです」


 そう言うとレイテは恥ずかしそうにしながら頭をかいて、ミヌエットは照れたように頬をかいた。

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