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俺は、また騙された

へとへとになって帰った昨日。

それはそれはぐっすりと朝まで眠れた俺。

朝。

気分は爽快な、筈だったのに。

「月央」

「はい、朽木さん」

「なんでまたお前は俺の家に居るんだ?」

目覚めると、また月央が部屋に居た。

しこたま驚いた俺は、また叫び声をあげて月央に「近所迷惑ですよ」と諭された。

相変わらずの独り身男性の汚い部屋に、幼い子どもが居るから違和感しかない。

「迎えに来ました」

「迎えだ?」

「朽木さんが、昨日は真面目に来たけれど、仕事が嫌になって逃げだしてないか確認してきなさいって母が」

どんだけヤバい人と俺は契約したんだ……。

今更ながら、子どもを使ってまで俺が逃げ出してないか確認って。

「月央」

「はい」

俺は居住まいを正して、月央の目をしっかりと見る。

「俺はちゃんと働くぞ。逃げ出さない、契約したからな。大人は約束を守るぞ」

「嘘……ではなさそうですね」

「おうよ」

「お金に釣られてはいますがね」

「ぐうっ」

痛いところを突かれた。

せっかく、大人としてカッコイイ台詞を言ってみたのに。冷めた子どもだな。

「まあ、いい。行くぞ、月央」

「朽木さん」

「何だ」

「寝癖くらい直していってくださいね」

「……」

訂正なんかしてやらない、本当に冷めた子どもだ!


廊下で管理人に会ったが、月央は愛想良く挨拶をして前を通る。

俺も、また愛想笑いで、

「親戚の子どもがまた来ちゃってて……」

とごまかして通る。

……何だか、悪い感じがして止まない。


月央の家に着くと。

「朽木さーん、朝ご飯ー!」

と早速まほさんに強請(ねだ)られる。

俺だってまだなのに。

とぶつくさ文句を言いながら前日から漬込んだフレンチトーストをフライパンで焼く。

こうして漬け込んでおくとフワッフワの食感になる。

「わー、ホテルのやつみたい~♡」

まほさんが焼きあがったフレンチトーストを見てはしゃぐ。

月央は冷静に見ているが、その頬がわずかに紅潮しているので興奮しているのだろう。こういう所は子どもだ。

「いただきまーす」

「はい、どうも」

俺もちゃっかりお相伴に預かりながら食べる。

さすが、俺って出来のフレンチトーストだ。

と、ここで俺は真っ当な疑問に行き当たった。

この家って、母子家庭だっけか?

まほさんをチラリと見る。

若いが、シングルマザーなのだろうか。

この家の中を隅々まで見た訳ではないが、父親という男性の影らしきものは見たことが無い。

複雑な事情でもあるのだろうか……。

俺が考え込んでいる間に、二人はもう食べ終わって食器を片付けていた。

「あ、俺やりますから」

「あら、じゃあお願いしますね」

まほさんは、「ルンタ、ルンタ♪」と謎のリズムを口ずさんで仕事部屋に向かう。

どうやら、今日も詩のアイディアが浮かんだらしい。

「……月央」

「はい?」

皿とフライパンを洗いながら、俺はさり気なく名前を呼ぶ。

月央は怪訝な顔をしながら俺を見上げる。

「あのさー。お前のお父さんって」

「……」

月央が黙り込んだ。

それに気付き、俺は何も言えなくなる。

もう、故人なのか……。

突如訪れた沈黙に、俺は居た堪れなくなってしまった。

台拭きで水場の水気をきちんと最後まで拭くと、月央は黙って階段を上がって行ってしまった。

悪いこと聞いたなー、俺。

そんな罪悪感でいっぱいな感じだった。

『ピンポポーン』

突然の変なチャイム音に、崩れそうになる。

俺は手を拭くと、急いで玄関に向かった。

この家のインターフォンには何故か今時のカメラ機能が付いていなかった。

「はーい、どちらさまですか?」

俺が扉を開けると……。

「まほさん、久しぶり♡」

「ぎゃー!」

いきなり男性に抱き付かれることになり、叫ぶ俺。

髭がボーボーの上に恰好が汚い!

それに大荷物を抱えていた。

「あれ? 君誰だ?」

「あんたこそ離れてくれ! 誰だよ⁉」

髭ボーボー野郎は今更のように腕の中の人物がまほさんじゃないことに気付いたようだった。

「お父さん……」

月央の茫然とした声に振り向く。

月央は、涙を堪えた顔で玄関の上り口に立っていた。

()()()()……?」

「そうですよ?」

髭ボーボーの台詞に俺は大分早合点したことに、今更ながら気付いた。

そして、思った。

()()()()()()……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず最新話まで読みました。(╹◡╹) 読んでるだけでお腹が空きますね〜。 主人公の名前に何か秘密がありそうですね。
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