俺は元料理人……だが?
「あぁ! 美味しい美味しい美味しい‼」
「いいから黙って食え!」
俺はフライパンを振るいながら叫んだ。
あれからが、まさにホラー映画さながらだった。
ゾンビにたかられるように、脅されるように「お、お願い。な、何か、作って」と女に縋られた俺。
半ば恐怖に駆られながらとりあえず、冷蔵庫にあった卵と昨日炊いたらしき白ご飯でオムライスを作ってみれば。
「お、美味しい……!」
秒で完食された。
「朽木さん……」
あ、月央の分忘れてたわ。
恨めし気にこちらを見る少年に今更気付く俺。
なので、今度は同じく卵と、さっきの白飯は使ってしまったので電子レンジで解凍のご飯を使って炒飯をちゃんと二人分作る。
湯気を立てる、炒飯に目を輝かせる二人。
今度は物も言わずに食べ終えてしまった。
そして視線が俺に刺さることこの上ない!
「分かった! ご注文は⁉」
「そうねー。パスタが食べたい!」
「僕は、お子様ランチみたいなのが……」
ちゃっかり注文が来た。
しかし、冷蔵庫は、
「空っぽだな……」
呟く俺。
「月央ー、買い物行ってきてくれ」
「僕がですか」
「他に誰が」
「ここは、良い大人がカッコよく行ってきてくれれば株が上がるのに」
「だーっ!」
俺は近くのスーパーに走った。
お金は、月央から貰ったが。
そして今に至る。
フライパンで作っているのはお子様ランチのチキンライスだ。
リクエストのパスタは、さっきナポリタンスパゲッティにしてもう出した。
月央は俺の側で、ワクワクしながら見守っている。
こういう所は、子どもらしいが。
「「ご馳走様でした」」
「おそまつさまでした」
目の前にはキレイに平らげられたお皿がたくさん。
あれから、更に何品作ったか……。
「あ~、幸せ~」
「おい」
「へ?」
「へ? じゃあないだろう。お前は月央の母親か?」
俺は目の前で幸せそうにお腹を叩く女にすごむ。
「そうよ」
ケロッと返された。
隣では月央が申し訳なさそうに俯いている。
「そういう貴方は誰?」
「は?」
「は? じゃないでしょう。まずは名乗らないと」
俺のストレスゲージがブチ切れそうになる。
まずは、そっちが名乗らないからだろう!
「この子が連れてきたからには、身元は確かなんでしょうけれど」
「……分かりましたよ。俺は朽木です。元料理人の、今は無職の」
「ふーん。無職の、朽木、さん、ね……」
月央の母親は、俺を見て何やら考えている。
そして、立ち上がると、俺の側にやって来て、ジーっと見る。
「な、何ですか……」
狼狽える俺。
「まあ、いいでしょう。私は、月央の母親で、詩人の立花まほです。ちなみに本名で活動してますからね☆」
可愛くウィンクされる。
年齢は、聞かない方がいいだろうな、女性には。
俺は何とか自制する。
「朽木さん。改めて、ご馳走ありがとうございます」
「ありがとうございました」
まほさんと月央が揃って頭を下げる。
「まあ、どういたしまして」
俺も釣られて頭を下げる。
奇妙な感じに駆られて、俺は考えてしまう。
さっきは子どもっぽかったのに、もう大人の顔をしている。だから、女性は苦手なんだよな。
考える俺をよそに、まほさんは言った。
「朽木さん、ここでご相談とお願いがあります」
「はい」
俺はかしこまる。
「しばらく料理人をしてくれませんか?」
「はい?」
俺の声が裏返った。
まほさんはニコニコしている。
月央は明後日の方向を向きながらも、目だけはこちらを見ている。
意味を悟った俺は、天をまた呪った。