俺の過去(5)
綺麗だな……。
不覚にも僕は何も言えずに、いきなり目の前で謎の「負けない」宣言をした女子を見つめてしまっていた。
僕の沈黙にカチンときたのであろう。その女子はいきなり。
「痛っ!」
何故か僕はデコピンをくらった。
指の力が半端じゃあなかった。
「フン、本当に朽木君様は何も知らないのね」
「え、は……?」
「そうやって胡坐かいてればいいんだから!」
「き、君はさっきから何を言いたいんだよ?」
さすがに僕の忍耐も切れそうになってきた。
「詩歌」
「え」
「結城詩歌、よ」
「結城、さん」
「詩の女神の申し子の詩歌なんだから」
「は?」
僕は目が点になった。
詩の女神の申し子?
この女子、大丈夫だろうか。
「あ、馬鹿にしたわね! その目は!」
女子改め、結城さんは僕の白けた雰囲気を感じ取ったのか、ますます眉間に皺を寄せて怒る。
そして仁王立ちをして言った。
「いい? 私は詩に愛されてるの。どんな詩でも書ける自信がある。だから、申し子なのよ」
何を言いたいのかは、分かった。要はかなり詩に対して自信があるようだ。
が。逆に僕はどんどん頭の中が冷静になっていくのが分かった。
「詩に神様が居るのは解る。詩は、神様からの言葉のプレゼントだから。誰にでも紡ぐことが出来る。だから申し子なんて居ないんだよ」
気付くと僕はこう言い切っていた。
「…………」
今度は結城さんが黙った。
色素の薄い大きな瞳が段々潤んでいく。
あ、これはマズいのかな。
そう、思った時バスがやって来た。
くるり、と結城さんは踵を返してやって来たバスに乗り込んでしまった。
僕も慌てて乗ろうとする。
生憎、同じ方向に結城さんは住んでいるようだ。
が、
「あ、この人乗りませんから」
バスの運転手さんに結城さんはさらりと言った。
「は!?」
「じゃあ、乗りませんね?」
運転手さんが確認をしてくる。
「はい」
僕じゃあなく結城さんが何故か答える。
「ちょまっ」
「発車しまーす」
運転手さんの声で、僕の目の前でバスの扉が閉まる。
「え、嘘」
唖然とする僕に、あっかんべーをした結城さんが見えた。
そしてそのままバスは行ってしまった。
「な、何なんだ!」
訳が分からずにいる僕に対して神様は冷たかった。
次のバスは、一時間後だった……。




