俺の過去(4)
桜咲く季節。
僕は、野々原小学校を卒業しそのまま市の中心部にある城山東中学校に進学した。
この中学校は、僕の卒業した野々原小学校に熊川小学校と緑小学校の生徒が集まった中学校だ。
野々原小学校もそんなに人数が少ない小学校だったし、熊川小学校も緑小学校も似た感じだ。
だからこそ、三校を集めないとそれなりの人数の中学校にならなかったのだろう。
入学式に保護者として参列してくれたのは、祖父だった。
そして、僕は何故か新入生挨拶代表者に抜擢されてしまった。
祖父の顔を見たら、嫌とは言えなかった。
「新入生代表の挨拶。一年一組の朽木――くん」
「はい」
僕の名前に、空気が一気に変わった。保護者席からひそひそと声が幾つもし、在校生からはどよめきが聞こえる。
壇上に上がり、並みの挨拶文を読んでから城山東中学校三年間の抱負を述べて僕は頭を下げた。
何故だか「わあっ」と歓声が沸いてしまったが。
壇上から降りる時、ふと鋭い視線を感じたが、気のせいだろうと思った……。
教室に入ると。その場がシーンとなった。が、すぐにざわめきが戻る。
僕は少しだけホッとした。
小学校とは違って、制服に身を包むとこうも同年齢の子達が違って見えるものだ。
制服に着られている男子が多いのに比べ、女子は急に大人びて見える。
……と、冷静に観察している場合じゃなかったか。
僕は出席番号順に並んでいると思われる椅子に座った。鞄を机の上に置く。
すると。
「君、朽木君だよね? あの賞を獲った」
隣の男子が早速声をかけてきた。それに続くかのように、周りで様子を見ていたらしいクラスメイトが数人寄って来る。
「詩を書いているんでしょ? 素敵!」
「ね、サイン貰えない?」
「あ、わたしもわたしも!」
顔を見ると、野々原小学校のメンバーではない。だからだろう。
興味津々、好奇心丸出しでいろいろ聞いてきたクラスメイトに丁寧に僕は答えていった。
面白くなさそうなのは、野々原小学校で散々僕をからかった連中だろう。教室の隅で「チッ」と舌打ちする音が聞こえた。
「……疲れた」
帰りに利用する学校近くのバス停まで歩く途中、僕は溜め息を吐いた。
七組まである一年生の中で、僕は断トツで話題に上っている生徒だった。
上級生からいきなり告白をされたのには、正直参った。
もう、初日からこれなのだ。
先に祖父には帰ってもらって本当に良かったかもしれない。
急用が入ったとかで、式が終わったら即帰って行ったのだが。何の用だったのだろうか。
首を捻る僕の肩にずしっと重みと痛みが走る。大量にある教科書の所為だ。
バス停にもうすぐ辿り着くという時。
僕の背後から、強く風が吹いた。
桜吹雪で、視界が埋まる。
「……!」
視界が晴れた時、僕の目の前には城山東中学の制服を着た女子が立っていた。
本当に、目の前である。
背が高い方となった僕の視線と同じくらいの瞳がじっと見ている。
色素の薄い瞳だと思った。
「負けない」
女子は突然そう言った。
「え……?」
戸惑う僕に、
「負けないからね」
風がまた強く吹き、女子の長い髪が巻き上げられる。
それが、詩歌との出会いだった。




