俺は、詩を買った
俺は落ちたタバコの火を慌てて、消す。
そしてこどもを見る。
男の子は、相変わらず喋らず、おまけに無表情でボードを俺に差し出す。
もう一度、そこに書いてあることを今度は口に出して言ってみる。
「詩、買ってください……?」
こくん。
男の子は頷く。
「待て待て待て」
俺は言った。
詩? あれか、ポエムってやつか?
何だか訳の分からない言葉ばっかり並べて、訳の分からない世界観広げて、「みんなちがってみんないい」のあの詩?
小学校で必ず習う感じで、作らされた詩……。
「詩か……」
男の子の瞳に、期待の色が浮かんだ気がした。
「残念だが、お兄さんお金あんまり持ってないん」
「ふえっ」
突然、男の子が顔を歪めた。
俺は嫌な予感がしたが、気付くのがコンマ何秒の差で遅れた時はもう遅かった。
「びえ~ん、わああああああん!」
盛大に男の子が泣きだしていた。
当然周りの人々が何事かとこちらをビックリした目で見る。
「なあ、泣かないでくれ!」
「わああああああああああああん!」
俺の声を無視して、泣き声は大きくなる一方だった。
「やだ、人攫いかしら」
「警察呼ぼうよ」
「あの人、怪しかったもんね」
ざわざわと人だかりができ始めた時、本当に向こうからお巡りさんがこちらにやって来るのが見えた。
「分かった! 買う買う買う!」
やけっぱちで、財布からお金を出そうとすると。
ぴたり。
男の子が泣き止んだ。
「はい」
それはそれはもう笑顔で手を差し出すではないか。
空恐ろしい気持ちと、これ以上注目を集めたくないので千円を渡すと、
「毎度ありがとうございました」
と言って俺に一枚の葉書サイズの紙をポケットから差し出した。
「ばいばーい。おじさん」
茫然とする俺に手を振り、去って往く男の子。
ぽんぽん。
肩をたたかれハッとすると、そこには厳しい顔で立つお巡りさんが居た。
俺は、天を呪った。