俺は、元詩人……
元詩人。
そう、俺は詩人だった。
この担当者の元で、詩集を出版したものだ。
「…………あんたも偉くなったもんだな、俺を出しにして社長にまでなったのか」
「――君」
「その名前で二度と呼ぶな‼」
カッとして俺は叫ぶ。
肩で息をするくらい、俺は怒っていた。
元俺の担当者だった、小出さん。下の名前なんか忘れてしまった。
すっかり老けて年も取ったから分からなかった。声も渋くなったし。格好だって立派なスーツ姿だし。
だが。
「……君とは、いろいろと話が必要だ」
「話す必要なんかこれっぽちも無い!」
そう、その話し方。
俺は噛みつくように言ってから、小出さんの目を見る。
その目も、変わっちゃいない。曇りない、人を信じ切っている目。
変わっちゃいない……。
「私も君も年を取った。大人同士の話し合いだ」
「ハッ。幼気ない子どもから搾り取るだけ搾り取ってくれたおかげさまで、こんな大人になっちまったよ」
「冷静になりなさい」
「すっかり冷静だよ」
小出さんは悲しそうに目を細める。
「いや、君は冷静ではない、過去に捉われて過ぎる」
俺の脳裏を、小学校を卒業するまでの日々が流れる。
純粋に詩が好きだった子どもの頃の俺。受賞が何よりうれしかった。なのに。それが原因で両親が不仲になり、結果。
詩の所為で人を傷付け苦しめた。
なんてざまあだ!
ダンッ。
床を思いっきり踏み付ける。
「……。では朽木君せめてでも君に言いたい事がある」
「なんだ。俺は帰る!」
今度こそ俺は小出さんに別れも告げずに出ようとした。扉を乱暴に開ける。
「朽木くん」
「青葉さん!」
ところが、そこには何時の間にか青葉さんとまほさんが立っていた。二人とも、真剣な顔だ。
「まほさん……」
俺は、まほさんの顔を見てグッと喉を鳴らす。
まほさんの少しだけ色素が薄い瞳が、澄んだ瞳が、真っ直ぐ俺を見上げている……。
「止めろ……」
俺は、言った。
「止めろ……っ!」
もう一人だけ知っている。
そんな瞳で、俺を見ていた人が居た。
結城詩歌。
彼女の名前はそう言った……。




