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俺の過去(3)

最初は、お父さんも、お母さんも嬉しそうに僕の頭を撫でて褒めてくれた。

けれど、僕の受賞が原因で夫婦仲が、壊れるとは、僕は、思いもしなかった……。


お母さんいわく、お父さんは結婚した当初から相当な真面目な人であり、ギャンブルの「ギャ」の字も毛嫌いしていたくらいの超が付く真面目さんだったそうだ。

卒業間近の僕が、同級生とうまくいかなくなってきた状況を何処で知ったのか、ある日学校に怒鳴り込みに来てしまった。

父親として、思うところがあったのだろう。

「好きなことを活かした結果、何故息子はからかわれる事になっているんですか!」

校長先生と僕の担任の先生を前にしてそう大声で言う声に、慌てて駆け付けた僕は堪らず恥ずかしくなってしまった。

「お前の父ちゃんおっかないな」

「モンスターペアレントっちゅう奴だ!」

男子たちは、ますます僕のことを囃し立てた。

僕の親は当時話題になっていたモンスターペアレントに同級生たちに認定されてしまった。

お母さんはお父さんのそんな行動に、

「息子がいじめられているんだもの。当然の行動よね」

と正当化していた。自分たちはモンスターペアレントでは決してないと。

子どもの為を思った行動だと。

そう思っていたからこそ、()が流れてもお母さんは最初は気にしていなかった。


僕の住む小さな田舎は田舎だからこその結束が強かった。

「朽木さん家は今度は教育委員会に文句を言いに行くそうよ?」

「あらそうなの!」

「おっかない。子ども同士の諍いにそこまで首を突っ込むなんて」

「本当は学校に怒鳴りこみに行くように頼んだのは奥さんらしいわよ?」

「今話題になっている鬼嫁ね」

「ますますおっかないわねー」

その日、お買い物をしにお母さんと一緒に八百屋へ行った帰り。家の近くの曲がり角を曲がろうとしたらそんな話声が聞こえて、僕の足は思わず止まった。

お母さんを見上げると、顔から血の気が消えていた。

「お母さん……」

「大丈夫よ」

無理やり笑って、お母さんはくるりと向きを変える。そしてその日は別の道から家へと帰ったのだった。

その晩の夕飯のおかずは、どこか味付けがイマイチだった気がした……。

それを指摘したお父さんにお母さんは、

「あらそうかしら?」

と答えていた。どこか、固い表情だった。


「う~ん……」

僕はその晩、珍しく夜半に目が覚めてお手洗いに行きたくなって慌てて布団から出た。

居間の横を通り掛かった時、部屋から明かりが漏れていた。

「……?」

僕は不思議に思った。

お手洗いに行くのも行きたいが、こんな時間に誰が起きているんだろうと。

さてはませた姉が深夜ドラマでも観ているのだろうか?

「あなたは確かに正しかったわ」

お母さんの声だった。

「あの子が自分の可能性を開花できたのは嬉しい。誇りだわ。でも……もうすぐ卒業なんだもの、あなた、もう少し考えて待っても良かったんじゃないの?」

「訴えに行ったのかがか?」

「ええ」

僕の話だった。

「だって、あの子が行く中学校はここら辺の田舎の小学校三校が一緒になるのよ。クラスメイトだって半分以上は、知らない子。きっとからかいも止んだでしょう。……あなた、ここのところ近所の皆さんが我が家を見る目が変わってきたのを知っている? いろいろ言われてるのよ!」

落ち着いた声が段々興奮して、お母さんが最後に叫ぶように言った。ダンっとテーブルを叩く音までした。

あの優しい落ち着いたおかあさんが、だ。

僕はその場に立ち尽くした。足が、動かない。

「……分かった」

「あなた!」

こちらに近付くお父さんの足音が聞こえてきて、僕の足は嘘のようにお手洗いへと駆け込んだ。

静かな、夫婦仲の崩壊がこの日から始まった……。

僕の目からは、涙さえ零れなかった。

祖父が、僕と姉を大層心配してくれた。

そして、そのまま僕は野々原小学校を卒業した。











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