俺、出版社に行く
まほさんから、○○出版社へ原稿を持って行くお使いを頼まれた俺は、
「…………マジか?」
と呆然として、突っ立っていた。
昨今のご時世をもっと考えるべきだった。
「身分証明をお持ちですか?」
そう。
俺は見事に警備員に出版社の入り口で止められていた。
「あのー、立花まほさんの代理でして」
「その証明は?」
「いや、原稿有るでしょここに!」
「そう言って、貴方の原稿の可能性がありますよね?
」
「だーっ!」
俺は、もっと考えて来るべき事だと、自分を呪った。
お金に目が眩むとろくなことがないらしい。
それと、密かに、芽生えた、まほさんの詩への……。
そこで俺は首を振る。
思い出せ。
それで俺は、誰を傷付けた?
警備員が黙った俺に怪訝な目を向ける。
その時。
「いいよ、通してあげなさい」
「は!?」
「彼の身元は私が保証するから」
いきなり、小綺麗なスーツを着た男性が割り込んできた。
そして、俺の背中をぐいぐいと押すと、あれよあれよという間に出版社内に導く。
そのまま、唖然とする警備員をその場に残して。
「社長、次の会議の予定……、来客ですか?」
「ああ、君は下がっていいよ」
「…………」
俺は、何故此処に……?
訳が解らないながらに、その男性に連れられて来られた俺は、「社長室」とプレートが貼られた部屋の椅子に座っていた。
秘書らしき人が部屋を出て行くと、
「さて」
と男性が俺に向き直った。
改めて、誰だ? と思った……が。
デジャヴ。
「まさか……」
俺の脳内にとある人物が浮かぶ。
ダン!
俺は、椅子を蹴るように立ち上がる。
そして、帰ろうと扉に向かう。
まほさん達にしてやられた!
やっぱりお金に目が眩むとろくなことがない!
「帰るのかね」
「あったりまえだ! 俺はあんたにも会いたくなかったんだよ!」
「私は、君に会いたかった」
「だから」
「元担当者に会えたのかにね」
やっぱり、あの人だったのか……。
俺は、半ば憎むように睨みを飛ばし、元担当者に向き直る。
そう。
俺は、俺は。
元詩人だった……。




