俺の幕間
「朽木君は、意外に鍋奉行だね~」
「青葉さん、おでんに鍋奉行、関係ありますか?」
俺は、立花家のキッチンの流しで土鍋を洗いながら青葉さんのおちょくりに答えていた。
まほさんはおでんに熱燗を出したら撃沈。
ソファーで大イビキをかいている。女性なのに……。
月央は規則正しく生活している超が付く真面目っ子なのでもう布団だかベッドに入っている。
言っとくが、アイツだって保育園児だもんな。
所詮お子様だ。
「……朽木君、僕の息子をあまりイジらないでくれたまえ」
「は、はい!」
青葉さんってテレパシー使えるんですか⁉
俺は洗剤の泡で手元が滑りそうになった。
いかんいかん。
今は洗い物に集中。
しばらく、無言が続く。
青葉さんをチラリと見遣ると、ちびりと日本酒をまだ飲んでいる。
のほほんとした顔に、俺は何故だか戦慄を覚えた。
油断してはいけない。
この家は居心地が良い。
立花家は、良い人たちだ。
だが、同時に俺の過去について知っているかもしれない人たちだ。
月央は当たり前だが除外……していいよな?
全ての洗い物を終えると、手拭きで手を拭く。
水場には、水滴一つ残ってないようにするのが、俺のポリシーだった。
よし、と俺は後ろを振り向く。
「まほさんを、ちゃんと布団で寝かさないと……」
俺の言葉に、青葉さんが腰を上げる。
「そうだね。愛しのハニーが風邪を引くよね」
青葉さんはむにゃむにゃ言うまほさんを軽く抱き上げると、
「じゃあ、朽木君。今夜は上がってね、もう」
と言ってくれた。
「じゃあ、また明日来ますんで」
俺はエプロンを畳むとカバンを持って玄関に向かう。
合鍵を貰ったので、施錠はしっかりして、と俺は夜道を歩きだした。
「……まほさん、本当は起きているんだろう?」
「あら、気付いてたの」
「勿論さ。で、朽木君を、今後どうするの?」
「……青くんの考えている通りだと思ってていいわ」
「そうかい……」
俺のあずかり知らぬところで、こんな会話をしていることを俺は知る由も無かった……。




