俺の、過去(一部)
「ねえ、――くん、どう出来た?」
「――。新作できたの?」
「待っているんだよ、君には期待しているんだから」
「私、――くんの……好きだな」
目を瞑った俺の脳裏に、幾つもの声が聞こえる。
大人から、子ども、男女の高い声低い声……。
そして、
「聞いて、『一番星』って詩が出来たんだ! 結城さんに、良かったら見て欲しいんだ……」
俺の、まだ変声期直後の定まってない、興奮した声。
俺は、グッと歯を食いしばる。
「うん、良いよ! だって、私ね朽木君の事前から―」
「止めろ……、もういいんだ、止めろ!」
「朽木君……?」
カッと目を見開いた。
俺を優しく呼んだのは、
「まほ……さん?」
立花まほさん、俺の今の雇い主だった……。
「やーっぱり、朽木くん、此処に居たね」
「どうして、いや、俺、が此処に居るの分かって?」
しどろもどろになる俺をまほさんが優しく微笑む。
「やーだ、目に涙溜まってるよ?」
指摘され、俺は慌てて目元を拭う。
ってゆーか。
「俺の方が、幾つ年上だと思っているんですかって!」
デコピン!
恥ずかしさまぎれに、俺は背が高いのをいいことにまほさんの広いおでこにデコピンを思わずくらわしていた。
「いったーい!」
まほさんがおでこを押さえてこちらを軽く睨む。
「叡智のおでこが縮まったらどうしてくれるのかしら」
「デコピンくらいでおでこは縮みませんよ」
何を言ってるんだか、この女性……。
しかも、さり気に叡智詰まってますアピールしたな。
俺はほとほと呆れてしまった表情をしたらしい。
「ふふふ……」
急にまほさんが笑いだした。
俺は軽くビビる。
「何、笑ってるんすか急に」
「だって」
まほさんが、幼い顔から一気に大人の女性へと表情を改める。
「苦しい顔、消えたよ?」
「!」
俺の体感温度が、一気に下がった。
「まほさんは、どこまで俺の事……?」
フラッシュバックする記憶。
様々な声に、あの娘の声。
「朽木くん」
「……」
黙る俺が身構えた時。
「くーつーきーくーん―♡」
「うわっ! って青葉さん⁉」
いきなり声がして、青葉さんに抱き付かれた。
「朽木さん……」
振り返ると、月央も居た。
ちんまりとした身長から、寂し気なオーラが出ていた。
「帰ろうか、朽木くん。今夜はおでんかな♪」
まほさんが、にこりと笑った。
「……はいはい、って青葉さんいつまでくっついてんすか気持ち悪い!」
「いいジャン別に―」
「青くんは、おでん何が良い~?」
「僕は断然、はんぺんです」
「渋いな、我が息子……」
ワイワイ言いながら、公園を後にする。
賑やかな親子に囲まれていると、俺の心はいつの間にか平穏を取り戻していた。
……どーでもいいですけど、立花家は、夏におでんやるのか……?




