俺は、飛び出して思い出していた……
俺は、俺の名前が、大嫌いだ。
この名前を付けた、両親が憎い。
この名前の所為で、あんな思いをしたのだから……。
ドクンドクン鳴る心臓がうるさい。
言葉を失っている俺に、青葉さんは少しだけ憐みをにじませた表情で見つめている。
「青葉、さん、何処で、俺の名前を……?」
ようやく喋れた自分の声が遠く聞こえる。
「やはり、そうなんだね。君は、あの」
「言うな!」
思わず大声を出す。
息が荒くなる。
「朽木さん……?」
ハッとして見遣ると、月央が目を丸くしてこちらを見ていた。
気まずくなる俺。
「すいません、今日は、どうも調子が……」
俺は、まほさんに頭を下げると返事も聞かずに立花家を飛び出した。
「青くん、朽木君に言ったの?」
「うーん、あそこまで拒絶反応を見せるとは」
玄関が音を立てて閉まる時、まほさんと青葉さんはこんな会話をしていたとは知らない俺だった。
ギーコ、ギーコ……。
夕焼けが沈むまで、俺は街中をうろついた。
煙草が無性に吸いたかった。
俺って結構ヘビースモーカーだったんだな。
ここら辺は、禁煙区域が多い。
やっと見つけた寂びれた公園のブランコに座って、ようやく一服することが出来た。
軋むブランコの音がやけに響く。
青葉さんは、詩人だ。
もとい、あの家には詩が溢れていた。
まほさんだって、もしかしたら、俺の事、知っているかもしれないことに今更気付く。
「俺って、馬鹿か……」
ぐしゃり、と足でタバコの火を消す。
ゆらりと立ち上がる。空を見る。
一番星を見つけると、無性に胸の奥が痛くなる。
一番星という言葉も嫌いだ。
思い出す。
あの詩を……。




